夏霞26

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「なるほど、いや、朝日ホールディングスの沢村家の食卓はどんなだったのかって、ちょっと興味がわいて」
 藤堂の科白に、沢村はすぐに眉を寄せた。
 良太もそれは沢村の癇に障るのではとチラッと沢村を見やる。
「いや、うちの家族は崩壊してるから、特に俺はうちではいわゆるみそっこで育ったんで、大抵一人で食ってたし、高校卒業してすぐ家を出たんで」
 沢村は露悪的な言い方をした。
「おやおや、そうすると沢村家の人々は、君の本質を知らないままというわけか」
 藤堂は沢村にムッとした顔を向けられても臆することなくそんなことを言った。
「まあ。大学ん時は、外食ばっかだったし、お陰で好き嫌いはないですけどね。俺は大学の近くにある定食屋の大盛ランチが一番好きだったな」
「ああ、体育会系御用達の定食屋って、どこの大学にもあるよね」
 藤堂が頷く。
「良太ちゃんとこもそういう店、あったよね?」
「そうですね、俺はたまに。大抵母親が弁当作ってくれてたし」
「あーあ、なるほど、それは羨ましい限りだ」
「そうそう、こいつ、試合の時もオフクロさんの弁当持参で、高校になると亜弓が弁当持ってやって来てたよな」
 藤堂に同調して、沢村が付け加えた。
「何だよ、お前なんか、豪勢な弁当ひけらかしてたくせに」
 良太がくってかかる。
「あんなもん、お前、デリバリーに決まってっだろうが。んとに、こいつ幸せな食卓しか知らねえやつ」
「俺んちの食卓なんて、あれだぞ? 芋の煮っころがしとか肉ちょっぴり野菜カレーとかぬか漬けとか、そんなんが大抵並んでるってだけだし」
 良太の発言に、「芋の煮っころがし……ぬか漬け……今時幻の手料理いうやつやな」と佐々木が呟く。
「いや、うちは貧乏だったから、母親が何でも作ってくれたってだけで、どこどこのケーキが美味いとかって聞いても、高いからって、誕生日も母親が焼いたケーキだったし」
「手作りのケーキ! 究極の贅沢だよ、それは」

 


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