夏霞27

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 藤堂が大仰に言う。
「ええ、そうっすか?」
 良太はあくまでも胡散臭げだ。
「こいつ、自分がどんだけ恵まれてるか、知らないんだって。いつだったか、こいつの弁当から盗み食いした卵焼き、どこの料理人が作ったんだって思いましたよ」
 沢村までがそんな話を持ち出した。
「いや、かなり、こいつのオフクロ、料理うまいっすよ」
「ええ……? まあ、まずいと思ったことはないけど」
 断言する沢村を見て、良太は首を傾げる。
「それ、かなり羨ましいわ。俺もオカンの世話係のさわのが存命の頃はまだマシやって。そんでも昔の人が作るメシやろ? ハンバーグとかスパゲッティとか子供が好きそうなもん作ってくれへんし、さわのがのうなってからしばらく、うちの食卓は地に落ちてもて。何せ、見よう見まねで俺が作ってたよって、めざしは焦げるか生焼けで、オカンがすぐ文句言うし」
 今度は佐々木の悲惨な食卓の話になった。
「つかぬことをきくけど、お母さんは料理とかは?」
 藤堂が言った。
「お茶とかくらいしかでけんから、実家から、さわのがついて嫁に来たんですわ」
「それはまた……」
 藤堂も気の毒そうな顔になる。
「お陰で俺は多少料理でけるようになったけど、元来、怠け者やからな~」
「あ」
 不意に沢村がそこで口を挟んだ。
「俺まだ、佐々木さんの作ったフレンチトースト、食べてない」
 さすがにその恥ずかしげもないセリフは佐々木の顔を赤くさせた。
「あほか、お前は!」
 全くこいつときた日には、こんなところで口にする話か!
 しかもそれはスキー合宿の超恥ずかしい朝帰りの事実を思い起こさせるではないか。
「すんげく美味かった!」
 しかも良太がわざとこれ見よがしに言う。
「何で良太が食って俺が食えてないんだよっ!」
 しかも沢村の科白はさらに駄々っ子のようになる。
「ええ加減にせえ!」
 藤堂はニヤニヤ笑うしかない。
 そこへそれぞれの朝食が並べられたので、佐々木も口を噤む。

 

 


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