夏霞34

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 いや、そうや、俺らが恋人やとか、何も取り決めしとるわけもないんや。
 俺が沢村の行動に文句をつける理由も権利もないんやし。
 それやのに、こいつは土地を買うたり、家建てるとか、ないやろ。
 そんなもん、ちゃんとした恋人とかできたら、後悔するんはお前なんやで?
 佐々木は心の中で、また沢村を責める。
 その時の思いつきでやってもうてはあかんことかてあるんや。
「佐々木さん? 疲れた?」
 しばらくどちらも口を聞かなかったからか、沢村は佐々木のようすを気遣うように尋ねた。
「まあ、あ、腹減ったな。どこかでメシ食わんと」
 すると沢村は、「鮨、出前頼んどいたし。ワインも日本酒もうちにいろいろあるから、いいだろ?」という。
「ああ、うん、ええけど………」
 車は六甲山町の坂を上がり、中腹に建つガラス張りのスタイリッシュな家の駐車場に滑り込んだ。
「どうぞ」
 沢村はドアを開けて佐々木を招き入れた。
 造りが箱根にある別荘にどこか似ている。
 同じデザイナーによるものではないかと、佐々木は中を見回した。
 眺望がすばらしい。
 ホテルの無機質さとは違い、ここから見るパノラマは街の温かさのようなものが感じられる。
 吹き抜けのリビングには大きなソファとテレビ、現代的な創りのマントルピースと暖炉があったが、空間がやはり広い。
 壁にかかる百号も名のある作家の具象画だ。
 ただ生活感がないな。
 部屋を見回していた佐々木を沢村はその腕を引いてキスした。
 拒むつもりはなかったが、何かしら佐々木の中に先ほどから芽生えた何とも例えようのない感情が渦巻いていた。
「何か怒ってる? いきなりこんなとこに連れてきたから?」
 しつこくキスを繰り返した沢村は、佐々木の機嫌をそこねたのではないかと不安げに尋ねた。
「……いや、…そんなことない……この家、箱根の別荘と同じデザイナー?」
「あ? 多分、祖父がオーダーしたらしいし」

 


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