夏霞36

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 これはひどい嫉妬だ。
 ただの一夜の相手だとしても、憎悪すら覚えてしまう。
 こんな感情、今までかつて知ることはなかった。
 どないしたんや、俺は。
 ほんま、おかしいで。
「佐々木さん? どうかした?」
 いつの間にかグラスや皿などを持った沢村が目の前にいて、佐々木の顔を覗き込んでいる。
「ああ、いや、ちょっと腹減り過ぎたんちゃうか?」
 佐々木は適当な言い訳をする。
 せえけど、聞けるわけないやろ………、それに何て聞くんや? こっちには女がいてるのか、とか?
 あほか。
 ほんで、当然のように、夜の相手が一人か二人くらい、とか言われたら、俺は、何て言うたらええね……。
 隣に座った沢村が佐々木のグラスに冷酒を注ぐ。
 佐々木がグラスを持つと勝手にグラスを合わせて、沢村は酒をゴクゴクと飲んだ。
「これ美味いな、こないだ広島で買ってきたやつ」
「せやな、辛口やけどのみやすい」
 それまで何となく会話もなかった二人だが、沢村が酒蔵を訪ねた話を始めた。
 歩いていたら道に迷い、二、三人の小学生が遊んでいたので道を聞いたら、駐車場まで連れて行ってくれたことなどを話しながら、沢村はパクパクと鮨をつまむ。
「それがさ、駐車場についてから、今時携帯マップでわかるだろ、とか使い方わからねんじゃないかとか、生意気なこと言いやがってあのガキども」
「子供にいわれっぱなしやな」
 佐々木はようやく笑う。
「しかもあのクソガキ、おっちゃん、よく見るとタイガースの沢村に似てるな、とか言いやがって」
「おっちゃん!」
 佐々木は吹き出した。
「沢村も子供にはかたなしやな」
「それもさ、別のガキが、夕べ広島戦でホームラン打ったやつ、とか言ったら、いっちゃん生意気なガキが、塩崎に比べたら、沢村なんかチョーへたっぴーだとか何とか、思わずこのクソガキがって口にしそうになったぞ」
 また思い出して憤慨している沢村を見て、佐々木はハハハと笑った。
「地元愛いうやつには負けるわな」
 そのナマイキな子供が、佐々木の胸の中にあった黒々とした嫉妬に蓋をした。
 滑らかな味わいの酒は、また少しだけ佐々木の気持ちを浮上させる。

 


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