花びらながれ18

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「口を閉ざしていないとどうなるかわからないぞ、って書面で届いたそうなんです。それ、持ってくるって言ってました」
「何でそのこと、もっと早く証言しないんだ、あの男は」
 イライラと渋谷は口にした。
 手持無沙汰のまま二十分ほどが過ぎた頃、表にタクシーが止まり、やがてドアを開けて市川が入ってきた。
「えっと、アナウンサーの市川さん?」
 渋谷も彼女が現れたことで状況がわかったらしかった。
 市川は、口を閉ざしていないとどうなるかわからないぞ、という強迫状が送られてきたこと、怖くなって有吉の部屋を訪ねたこと、一時間ほど話して、部屋に帰るのが怖いという市川を、有吉がタクシーで送ってくれたことなどを語った。
「タクシーで、有吉さんも一緒にあなたのマンションまで送って行ったんですね? どこのタクシーだか覚えていますか?」
「これ、領収書です」
 市川は脅迫状と領収書を渋谷に渡した。
「お預かりします。脅迫されたことで思い当たることはないんですね?」
「……全然、思い当たらなくて……すみません」
 念を押すように聞いた渋谷に、市川は首を横に振った。
「あの、奏ちゃん、大丈夫ですよね? 釈放されますよね?」
「おそらく……裏は取りますが、タクシーがあなたのマンションのある青山に着いた時間が死亡推定時刻の午後九時、それからそのタクシーで有吉さんが世田谷の自宅にちゃんと戻ったのなら」
「だって、電話したら部屋に戻ったって言ってたし」
「市川さんのことは極力内密に処理します」
 渋谷は言ったが、市川は、私はかまいません、という。
「奏ちゃんはダメだっていうけど……」
 市川はどうやらかなりな覚悟を決めたらしいと、良太は思った。
 市川は番組があるというので慌てて戻って行ったが、ちょうど鈴木さんが帰る頃になって、釈放された有吉が小田を伴って青山プロダクションを訪れた。
 鈴木さんが二人にお茶を出すと、小田が裏庭の桜がそろそろ良さそうですね、と声をかけた。
「ええ、平造さんが毎年黙って、手入れしてくださるから、上野や千鳥ヶ淵なんか行かなくてもここで十分お花を堪能できますわ」
「おい、工藤、今年はここで花見だな」
 小田が桜を避けている工藤にわざとらしく声をかけると、工藤は眉を顰めた。
「去年もちょっとやったんですよ。今年は声かけますね、小田先生」
 良太が工藤に代わっていった。
「おう、楽しみにしてるよ」
 その間も有吉はソファにふんぞり返って、黙って茶をすすっている。
「有吉にもはめられるような相手に心当たりはないというし、どうやら捜査は振り出しらしい」
 それから小田は二言三言工藤と言葉を交わすと、何かあったらいつでも連絡してくれ、と鈴木さんと前後して帰って行った。
「ったく、あのバカ、黙ってろって言ったのに」
 そして当の有吉の第一声がこれだった。
「ふざけるな!」
「しっかし、良太ちゃんに助けられるとはねぇ」
 工藤の怒号にも有吉はへらっと笑う。
「冗談じゃないです! こっちは仕事に支障きたしまくりなんですから。それに有吉さんの勝手な行動のせいで、番組にまで支障が出たらどうしてくれるんですか!」
 良太は食って掛かる。
「いい教育してるじゃねぇか、工藤さん。部下は大事にしねぇとな」
「フン、市川の写真撮って、週刊誌に売りつけるなんて当てこすりするとか、小学生レベルだろうが」
 有吉の冷やかしに工藤はそう言い返す。

 


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