「はじめてお目にかかります、私、青山プロダクションの……」
パソコンの前にこちらに背を向けて座っている女性が一人いたので、良太は名刺入れから名刺を取り出しながら声をかけた。
「ああ、君が良太ちゃん? なるほどねぇ」
良太が自己紹介し終わらないうちに振り返って立ち上がったのは、何と、水野あきらその人だった。
ってか、良太ちゃん? 何がなるほど?
髪はぼさぼさ、Tシャツに皮のジャケット、洗いざらしのジーンズにくたびれたスニーカーといういでたちだが、異様に彫の深いエキゾチックな美貌が際立っている。
確か彼女もハーフだかクォーターだかと聞いたことがある、が、いったい全体、初対面で良太ちゃんと呼ぶその理由が、良太は気になった。
「ごめんごめん、あたし、水野あきら、よろしくね。良太ちゃんの噂はひとみから聞かされてて、つい」
ああ、だから気軽にOKしてくれたんだと、良太はそれで納得した。
水野あきらは山内ひとみの類友ということだ。
かつて工藤を三カ月で振ったという大物女優山内ひとみは、工藤とは腐れ縁で今や工藤にモノ申せる希少な存在だ。
つまり、この人も工藤とも?
一つの疑惑が良太の心に芽生える。
「まあ、座って座って」
水野は良太をソファに促すと、奥のキッチンへ引っ込んで、やがてコーヒーが入ったマグカップを二つ持って出てきた。
「コーヒーでいいよね?」
「あ、はい、どうぞ、お構いなく」
何と人気ミュージシャン手ずから入れてくれたコーヒーの前で良太は恐縮した。
「ごめんねぇ、この事務所、年明けに立ち上げたばっかで、まだ事務の子も決まってなくてさ。前の事務所からは円満に独立したんだけど、新しい会社作るのって大変だよね、色々やんなきゃならないことばっかで。経理とかは知り合いの会計士にお願いしてるんだけど、マネージャーとかも探さなきゃなんないし、ひとみにも色々相談に乗ってもらったり」
「え、今、じゃ、お一人で色々やられてるんですか? 他のメンバーの方は?」
確かドラゴンテイルは四人組のはずだ。
「ああ、今、オフだから。私ら結成当時から、マイペースで自分の音楽をやっていこうってのがモットーで、一年の半分はツアー、半分は曲作りってことになってんの」
そう言いつつ水野はテーブルにあった煙草の箱から一本取り出そうとして、「ああ、いけないいけない」とまたそれを戻す。
「禁煙中だった。何か高広も、本数減らしてるんだって? それも良太ちゃんの進言なんでしょ? あの高広ができるんだったら、私もやるって思ってさ」
「絶対ダメだとはいいませんけど、本数は減らした方がいいと思いますよ」
高広……って、やっぱりね……
妙に納得した良太は疑惑が形になっていくのを感じたが、それより仕事、と切り出した。
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