花びらながれ7

back  next  top  Novels


「あ、ヤギちゃん元気? この仕事ヤギちゃんとやってるんだって?」
 水野が思い出したように聞いた。
「はい……、すごく元気ですよ。ヤギさんと、それからカメラマンの有吉さんに今回のプロジェクトに参加して頂いています」
 工藤のMBC時代の同僚で今はフリーのディレクターである下柳は、もさっとしたルックスだが、仕事以外では和やかな雰囲気から、ヤギと呼ばれて周りから慕われている存在だ。
「ヤギちゃんってさ、見かけはジジくさいくせに、やること結構硬派なんだよね」
 それからまだ少し、良太は水野と話をしたが、私も昔は小娘だったから、のあとはあまり覚えていなかった。
「今度、飲もうね」
 明るく見送られて、良太は水野の事務所をあとにした。
 だったから、何だったんだろう。
 つまらないことに気を取られて、何かをミスったりしてはいけない、自分を叱咤してはみるものの、そのキーワードがなかなか頭の隅から消えてはくれない。
 オフィスに帰るとちょうど先ごろアフリカから帰国したばかりの下柳から連絡が入ったので水野のことをちょっと聞いてみた。
「水野か、懐かしいな、元気だったか?」
 下柳は、水野は気に入った人間じゃないとなかなかしゃべらなかったりするから、良太ちゃん、気に入られたんだな、などという。
 それはラッキーだったのかもしれないが。
 何でも水野は資産家の令嬢らしく、事務所や自分の部屋があるマンションは親が管理しているのだろうと下柳は言った。
 だがどうやら前の事務所で、担当マネージャーが事務所の金を使い込んで姿をくらましたらしく、それで割とスムースに独立できたのだろうという話だった。
 俳優の小笠原もマネージャーに金を洗いざらい持ち逃げされたのを機に、青山プロダクションに移籍してきたわけで、やはり魑魅魍魎がどこに潜んでいるかわらかない世界だと、良太は改めて思う。
 水野が言った、誰を信用していいかわかんなくなるというのはそういう経験があったからなのだろう。
「そうだ、そろそろ電話してみよ」
 良太は鬼のご機嫌はどうだろうと予測を立てながら、工藤の携帯をコールした。
「あ、お疲れ様です」
「何だ?」
 途端に不機嫌な声が返ってくる。
 不機嫌なのはわかっても、やはり聞くしかないだろう。
「実は坂口さんから連絡がありまして」
 ヒロインに竹野紗英が決まった途端、ドラマに出演予定だった女優二人が降りてしまったため、坂口から代役を決めてほしいと要請があったのだと、良太はなるべく丁寧に説明した。
「そんなものはお前が決めろ」
 えっともそんなとも、抗議する余裕も残さず、工藤の携帯は切れていた。
「何だよ、それぇ!!!」
 良太は思わず大きな声を出した。
「どうしたの? 良太ちゃん」
 鈴木さんがちょっと驚いて振り返った。
「あ、いや、その、ちょっと………何でもないです」
 ったく冗談じゃないぞ! ヒントとかくらいくれたってバチはあたらないだろうがっ! 俺が決めろって、どんなことになったって、俺は知らないからな!

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます