上弦の月9

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 フットライトを残して灯りを落とすと、内装を取り仕切った平造があつらえた厚ぼったいカーテンの隙間から漆黒に浮かぶ上弦の月が目に入る。
 細く鈍く放つ月の光を肴に、工藤はグラスの液体を口に含む。
 いつもなら甘美なはずの酒が美味くない。
 全く。
 こんなことなら良太と一緒に会社で降りて、言いたいだけ言わせてかまってやるんだった。
 俺としたことが妙に気を回し過ぎてオノレをコントロールできねぇなんざ、ザマぁないな。
 いまいましげに舌打ちした工藤は眠るには目が冴えて、一つ二つ残っていた海外とのアポイントを取るべく受話器を取りあげた。
 
 
 
 
 トゥリ………トゥリリリリリリリリリ………トゥリリリリリリリリリ………!
 頭の上でいきなり鳴り始めた音に思い切り不快感を覚えながら、その不快な音の発信源を断とうと良太は目を閉じたまま手を伸ばした。
 だが、止めたはずの音はまだ鳴り続けている。
 眉を顰めながら、良太はのっそりと半身を起こし、まだ明けやらぬ目で枕もとの目覚まし時計を掴むが、どうやら音の発信源は目覚まし時計ではないとぼうっとした頭で考え、あたりを見回した。
 ようやく椅子に引っ掛けた上着のポケットからその音が発せられているのだと半分理解しつつ、ベッドを這い出してポケットから携帯を取り出した。
「はい……青山プロダクション…………」
「おい、何寝ぼけてんだ? 俺だ」
「俺…………?」
「おい、良太、俺がわからねーのか? え? 生まれてこのかた、十八年も一緒に生きてきた俺だぞ?!」
「ああ…………? 肇かぁ? 何だよ、朝っぱらから、俺は昨日遅かったんだ……」
 ようやく誰だかわかって、良太はまた目を閉じそうになった。
「真っ昼間の十二時のどこが朝っぱらだ? お前が夕べ遅かったんじゃねーかって、これでも遠慮して朝はかけなかったんだぞ!」
「……………! 怒鳴るな………頭にひびく……」
「ったく、二日酔いかよ………」
「悪かったな………」
 ガンガン頭の中で何かが暴れているような気がする。
 ナーーーンン……。
 ナータンがスリッと身体を摺り寄せる。
「ああ、ごめんな、今、ご飯やるからな」
 良太は優しく小さな頭を撫でてやる。
 そうだった。
 夕べ、工藤と別れて部屋に戻ってからついつい自棄を起こして向い酒なんぞに走ったんだ。
 冷蔵庫に入っていたチューハイを三本ほどと冷酒。
 ああ美味いなんて調子こいて飲んだ冷酒が効いたんだろう。
 ズボンは脱ぎ捨てたまま、ワイシャツもボタンが半分外れている。
「わかった。今から胃薬でも持って行ってやる。かおりも一緒だ」
「ああ…………………??」
 聞き返そうとした時はもう切れていた。
「行ってやる……って、何考えてるんだ? 肇のやつ……」
 良太は携帯を切ったあと、冷蔵庫からポカリを出して一気飲みする。
 少しばかり脳が働き始めたような気がして、まずお待ちかねのナータンの皿にご飯をやるとざっとシャワーを浴びた。
 変な天気だな。
 タオルで頭をこすりながら窓を見やると、陽がさしているのに雨が降っている。
 空にぽっかり浮かんだ雲がやけに清清しい。
 そういえば昔、リトルリーグの試合でこんな空の下で思い切りボールを投げたのを良太は思い出した。

 


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