そんなお前が好きだった24

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「その頃からモテまくりなんだ、井原センセ」
 寛斗の発言に何やらトゲを感じたのは、「何よ、その言い方」と文句を言った琴美だけではない。
「だって今朝も新任式の時、英語の荒川先生と仲良さそうだったし。あ、荒川先生って、井原センセの彼女とか?」
 さらに寛斗が続けると、「荒川先生はサンフランシスコに留学しておられたみたいで、俺がアメリカにいたことを聞いて話しかけてこられただけだよ」と井原はあくまでも穏やかに返した。
「フーン、新任早々美人教師に早速アプローチですか。手、早いっすね」
「ははあ、ひょっとして寛斗くん、荒川先生にフォーリンラブとか? 安心しろよ。俺はそういうつもりないから」
 尚も突っかかる寛斗を軽くいなすように井原は笑った。
「おいおい、早速恋のさや当てかよ、井原。しかも生徒相手に」
 そこへいつものようにやってきた東が茶化しながらカウンターに座る。
「まあ、何でもいいからとっとと彼女います宣言とかしといてくれよ。女子どもがきゃあきゃあうるさくてしょうがない。今しがたも血走った女子どもに俺捕まって、同学年でしょ、既婚者じゃないよね、彼女いるの? とか何とか、お前のこと根掘り葉掘り」
 そんな文句を並べた東は、響と同じ非常勤講師で美術を教えている。
 ジャンルは違えど、響とは同類かも知れないが、東の場合は家が旧家で裕福な上、家族揃って人が良く、何でもやらせてもらえるらしい。
「最強のライバル現るだね、東。あ、万年失恋組の東がライバルとかって井原先生に失礼か」
 いつものように紀子が東をからかう。
「うるさいよ、紀ちゃん!」
 元気がくすくす笑いながら東お気に入りのブレンドを出す。
「くっそ、荒川先生、こんな田舎にはもったいないくらいの美人なんだぞ」
 ぼそぼそと東は元気に告げる。
「へえ? 今度連れて来いよ」
「嫌だ! 元気に合わせたりしたらまたライバルが増える」
 東の声は井原にも届いたようだ。
「それ、荒川先生、ヤバいぞ。ロックファンだっつってたから」
「マジでヤバくない? ひょっとして元気のこと知ってたりして?」
 紀子がさらに追い打ちをかける。
「やめろよお!」
 情けなさそうに喚く東に、周りがどっと笑う。
 響はふと、そうだった、あいつの周りっていつも笑いが絶えなかったな、などと井原を見つめて思う。
「キョーちゃん! 今夜、にゃー助の爪、切りに行くから」
 唐突に寛斗は立ち上がってそういうと、レジで紀子にコーヒー代を払い、ドアを開けた。
 そしておもむろに振り返り、井原を睨み付けてから出て行った。
「何だ、あいつ。にゃー助の爪とか、今夜じゃなくても………」
 響がつぶやくと、「何か寛斗ってば感じワル! やたら井原先生にからんで、マウントとか百年早いわよ!」と琴美が出て行った寛斗に向かって怒る。
「にゃー助って? 猫、いるの?」
 すかさず井原が響に聞いてくる。
「あ、ああ。寛斗のお姉さんがやってる保護猫カフェでもらってきた」
「かわいいよね~!」
 琴美がテーブルの上の響の携帯を取って、にゃー助の写真を井原に見せる。
「お、可愛い! さわりてえ、もふもふ!」
「長毛じゃないんだけど、微妙に毛が長くて手触りはいいぞ」
 にゃー助のことになると、響もつい顔をほころばせてしまう。
 今では猫がいなかった時が信じられないくらい、にゃー助中心に人生がまわっている。
「井原先生も猫好きなんですか?」
「俺は犬派かつ猫派かつウサギ派かつハム派!」
「やだ何それ~」
「今までうちにいたやつら全部派」
 井原はワハハと笑う。
 琴美も元気や東も紀子も笑っている。
 響もつられて笑う。
 そうだった。
 そんな笑顔が好きだった。


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