お前の思い切りのいい笑顔は、晴天の空のように清々しかった。
変わらないんだな、そんなところは。
井原の笑顔を見ながら、何だか、あの頃に戻ったような気がして、響はふわりと胸に温かいものを感じた。
「にしたって、寛斗、大丈夫なんでしょうね。なんか上の空で聴いてたけど。ピアノがちゃんと合わせてくれないと、成り立たないんだけど」
不安そうな琴美の声に、響は現実に舞い戻る。
「あいつ、そこそこ器用に弾くんだけど、気分屋だからな」
サッカー部長としての部活紹介はここ数年と変わらず、一人ひとり紹介していく武骨なだけのものなのだが、部員数が圧倒的に足りない音楽部に片足を突っ込んでいる寛斗がピアノが弾けるというだけで、先日一度合わせたきりだ。
それでもリズム感もあるし指も動いているので、他のパーツとしっかり合わせてくれれば問題ないはずだ。
だが、今日の寛斗は妙にイラついているようで、話もそこそこにしか聞いていない感じだった。
「あいつ、キョーちゃんフリークだから、キョーちゃんがいればちゃんとやってくれると思ったのに」
琴美が口を尖らせる。
「何だよ、それは」
さほど意味はないのだろうが。
「今夜、にゃー助の爪切りに行った時、キョーセンセ、あいつにガツンと言ってやってよ。やる気がないんなら来なくていいって。あいつ、キョーちゃんに見放されたら大変だと思って、きっちりやると思うから」
さらに琴美は微妙なニュアンスの発言をする。
「あ、まあ、ちゃんと言っておくよ。そんな大仰な話じゃないと思うけど」
すると琴美は、はあ、と一つ溜息をついた。
「やっぱ、キョーセンセと寛斗じゃ、温度差があるよね。とりあえず、今夜、お願いします! あたしにとっては高校生活最後の音楽部なんで」
琴美は拳を握って一つ頷くと、お先に失礼します、と店を出て行った。
「彼女、気合入っているっつうか、熱量がこっちまで来てたよ。音大志望なの?」
井原が聞いてきた。
「瀬戸川? いや、医学部志望」
「いがくぶ? んで、音楽部に精魂込めてて大丈夫なのかよ?」
「さっきのナマイキな寛斗も彼女も親が医者で、寛斗はまあ、浪人覚悟だけど、瀬戸川は全国模試でも大抵上位入ってるから盤石なんだよ」
響の説明に井原は思わず出口を振り返った。
「え、すげ」
「勉強の合間にチェロを弾くのが気分転換になって、効率的なんだと。ま、俺にはそんなマネ到底できない」
感心しきりで響が口にすると井原が笑った。
「響さん、何だか雰囲気柔らかくなった?」
「は?」
いきなりそんなことを言われて井原が見つめてくると、響は軌道修正が効かなくなって、頬が赤らんでしまった。
「急に変なこと言うなよ」
「変なことなんか言ってないっしょ? 前はなんかヤマアラシみたいに尖ってたから」
「誰がヤマアラシだよ」
だが、昔は誰も寄せ付けない感じでいたのは確かだ。
だから誰も近づいてこなかったのに、こいつだけ別だった。
変なヤツ。
「いんじゃないっすか? 生徒にも慕われて、俺も負けてられないな」
真面目な顔で言う井原に響は苦笑いする。
「音楽部は今、絶滅寸前だから瀬戸川も必至なだけだろ。非常勤講師だから担任とかないし、気楽なもんだ」
変わったと言われればそうかもしれない。
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