そんなお前が好きだった29

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 いや、尾上も流行りだしなんて笑ってたくらいだから、ジョークの一種だったのだと思っていた。
 あきらめねーからなんて喚いていたのは多少気になっていたのだが。
 それに、そういうつもりはないと一応言ったよな?
 そこまで俺にマジだとかは思わないが、俺が拒否ったから寛斗はぶすくれているのか。
 どうしたものかな。
 響は腕組みをしてうーんと唸る。
 でかい図体していても難しい年頃だ。
 俺のせいで演奏に差しさわりがあってはまずいよな。
 一度話してみるか。
 窓からグラウンドに目をやると、寛斗は既にサッカー部の練習に合流して走り回っていた。
 ひょろっと背が高いし、よく走るフォワードが寛斗だ。
 どちらかというと相手に点を取らせないディフェンスとしての動きがいいのだろう。
 それでもチームとしては予選に勝ち上がればいい方、ずっとサッカーをやっていくというにはレベル的にも無理があるらしい。
 これから先どの道を歩いていくか。
 悩み多き青春だな。
 まあ、ヤマアラシみたいに自分の殻に閉じこもって誰も近づけないなんてのよりは、全然いいよな。
「キョーセンセ、週末の飲み、六時に迎え行きます!」
 唐突にドアから顔を出した井原の声に、寛斗は驚いて振り返る。
「天文部は終わったのかよ。ってか、何だよ、お前までキョーセンセとか」
「いやあ、なんかいい響きだから」
 ひょうひょうと井原は中に入ってくる。
「大体、飲み行くなんて俺、言ってない」
「元気と東と俺と響さん、もうメンツに入ってるから、空けといて」
 井原はまた勝手に約束取り付けている。
「井原先生~、早くしてください~!」
 廊下の方から聞こえてきたのは荒川の声だ。
「あ、はーい! 今、行きます!」
 井原はその声に返事をすると、「今から新任だけの懇親会なんです」と言い訳をするように言って井原は走っていった。
「おいおい、教員が廊下走ってどうするよ」
 響は呟いた。
 今年の新任教師は四人。
 物理の井原と英語の荒川、それに国語の田中俊絵と数学の柿下敬一郎だ。
 田中と柿下は大学を卒業したての二十三歳で教師としても初々しく、生徒たちも新米扱いだが、井原はイエール大大学院からと荒川も二年ほど留学していたため、二十七歳と二十五歳で全くの新人とは少し毛色が違うだけでなく、新人らしからぬ態度で生徒に既に教師として認識されている。
 同時に荒川が井原にアプローチしているという噂もSNSのお陰で瞬く間に広がった。
 早速付き合っているらしいと二人を揶揄するようなものから、久々現れた美人教師の荒川をマドンナ的に崇める男子生徒たちや井原を荒川から守る会などと井原ファンの女子生徒たちが派閥を作り始めているとは、瀬戸川から響も聞いている。
「人気者の宿命ですよね~。DVDから推測するだけですけど、高校時代も相当井原先生、人気あったみたいだし、実際、ここ数年教師にはいなかったカッコよさですもんね。しかもジャズ歌うだけじゃない、英語話せるわ、イエール大だわ、ありまくりのモテ要素を東先生にも分けてあげてほしいわ」
 瀬戸川は割と物事を俯瞰でよく見ている少女だと、最近響にもわかってきた。
 響に近いものの見方をしている。
 ただし、有言実行で行動力があるところは、響にはマネができないかもしれないが。
 


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