そんなお前が好きだった28

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 たまたま傍にいた響はくすりと笑う。
「でも気になる人がいたらアピールして近づくんじゃないの? 今時の子は」
「やだ、キョーセンセ、今時の子はとか、年より臭いこと言わないでください」
 響がボソリと言った途端、瀬戸川に突っ込まれた。
 いや充分年寄りなんじゃないのか、君らより十も上だし。
 だが、井原が音楽室に来ると、井原を追いかけるように荒川がやってきたことがあった。
「音楽部の活動中なんですけど」と瀬戸川が教師であろうと動じず荒川を睨み付けた。
「先生、お邪魔しちゃダメみたいですよ」
 荒川は瀬戸川を鼻で笑い、井原の腕を掴んで音楽室を出て行った。
 音楽部の活動は毎日というわけではなく火曜日と木曜日と決まっているのだが、それ以外の日も個人で自由に練習できることになっていた。
 非常勤の響だが、授業は月曜から金曜まで一コマか二コマくらいずつ毎日あるため、結局毎日来ていた。
 音楽準備室に講師の机があるので、基本そこに詰めている。
 また準備室には、アプリを使った演奏や曲作りができるように高性能のパソコンも置いてある。
 自分の仕事は自分のタブレットを広げてやっているが、たまにそちらのパソコンでアプリを使うこともある。
「こんなの、昔はなかったよな」
 そう言って井原も早速そのパソコンをいじっていた。
「井原先生、あんた、天文部の顧問だろ?」
 やがて生徒たちがやってきたが、井原をみとめた寛斗が文句を言った。
「固いこと言わないの。俺もと音楽部長だったんだぞ」
 井原はとっておきの笑顔を見せる。
「はるか昔のことだろ? 荒川先生が探してたぜ?」
 不機嫌そうな顔で寛斗は言った。
「ははあ、君も荒川先生を狙ってる一人だっけな? 気にしなくていいよ、俺はそういうつもりないから」
「俺がいつんなこと言ったよ?」
「ちょっと、寛斗、席について」
 くってかかりそうになった寛斗に、瀬戸川が注意した。
 新入生五人も出席して、みんな神妙な顔で瀬戸川からコンクールの話を聞いている。
 それにしても、と響は寛斗の横顔を見た。
 今までお茶らけた寛斗は知っていたが、最近ぶすっとしていることが多くなった。
 あの入学式の夜、二人目のレッスンの途中でやってきた寛斗は、勝手知ったるで寝室にいるにゃー助の爪を切っていたが、その頃から不機嫌そうな表情をよく見る。
 あの夜は部活紹介の時の曲を弾くのを見てくれと急遽少しレッスンしたのだが、にゃー助のグッズを届けたり、爪を切ったりしてくれたあとは、コーヒーを飲んだりしてゆっくりしていくのがいつもの寛斗のはずが、コーヒーの誘いにも乗らずにそのまま帰ってしまった。
「何か、俺、嫌われてる? 寛斗に」
 みんなが帰った後、瀬戸川と少し話をしていた時、響はぽつりと口にした。
「それはないでしょう」
 瀬戸川は即答する。
「けどあいつ、ここんとこずっと仏頂面だぜ?」
「それはね~。でも寛斗がキョーセンセのことを嫌うとかないです」
「断言するね?」
「だってあいつ、キョーセンセに一直線なんですよ?」
「一直線???」
 瀬戸川は含み笑いだけを残して帰っていった。
 まさか、こないだのあれ、マジ、とかいうわけじゃないよな?
 そういえば、と思い出したのは、ガラスを割った日に寛斗が響に詰め寄った、あれ、のことである。

 


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