「なあ、実際、どうなの? あいつら」
東は元気にボソリと尋ねる。
「俺が知るか!」
元気は胡散臭げに言い放つ。
「まああれだ、人気のあるヤツらがくっついてくれる分には、俺は助かる」
「だから、それ、人気のあるヤツらがいる、イコール東がモテない、人気のあるヤツがいなくなる、イコール東がモテるって法則は成り立たないよん」
東の科白に紀子が方程式でダメ出しをした。
「よかったよな、音楽部ダントツで。新入生五人も確保したって? ヴァイオリンの子は本格的だし、チェロの瀬戸川も堂に入ってるし、ピアノとフルートはそこそこでも、アニメ曲とクラシックの選曲もなかなかよかった」
井原は携帯の動画を響に見せながら、部活紹介の際の音楽部はコンサートのようだったと終わってすぐから、ここ数日の放課後、わがことのようによかったよかったと繰り返している。
音楽部のコンサートの模様はいつの間にかSNSでも拡散していた。
「五人って言ったって、男子二人は他の部とかけもちでどうみても瀬戸川目当て、後の三人の女子は寛斗目当て。果たして本腰入れて続ける気があるのかどうか」
響は腕組みをしてうーんと口にする。
「医学部志望が二人いてしかも合格間違いなしの瀬戸川が看板だからな。瀬戸川なかなかきりっとした美人だし」
うんうんと井原が隣で頷いた。
「ってか、井原センセ、こんなとこいていいのかよ。天文部の顧問になったんだろ? 今日部活あるんじゃないのか?」
「ああ、いいのいいの。天文部なんて最近できたはいいけど、部員数三名のインテリ集団だから、任せておけば大丈夫。あとでちょこっと顔出しすれば」
入学式以来、暇を見てはしょっちゅう音楽室にやってくる井原の顔を響は怪訝な顔で見上げた。
元気の店で再再会して以来、響と井原とはまるであの高校時代の続きのように言葉を交わし、一緒の時間を共有している。
先週末に井原の歓迎ライブとばかりに元気の店はライブハウスさながらに、ロックにジャズにジャンルを問わず大盛り上がりだった。
元気が「昇り龍」と称して年末に行うバンドのメンツと、元気のギターに合わせて井原がロックをシャウトすれば、井原の割と本格的なジャズボーカルに無理やり響がキーボードをやらされたりと、どの曲もプロはだしで観客は大満足で何度もアンコールがかかった。
観客といってもほとんどが仲間たちや、元気のファンらが中心だったが、寛斗や瀬戸川、志田、榎ら音楽部の生徒の他に、荒川や田中といった赴任したばかりの教員の姿もあって、狭い店内は一杯になった。
中でも生まれはサンフランシスコで、大学時代に二年ほどまた同じ町に留学していたという、美人でネイティブな英語を話す荒川希美は男子生徒の間でもたちまち注目の人となっていた。
ただし彼女は雰囲気も行動も積極的で井原に取り入ろうとするのを隠そうともしていなかった。
男子にはもてはやされていたが、ライブの夜、そんな荒川をあまりよく思っていなかったのが紀子と瀬戸川だ。
「あたしを見なさいよって感じの女、好きじゃないのよね、あたし」
「同意です」
しきりと英語交じりで井原に話しかけている荒川に目をやりながら、紀子の発言に瀬戸川が大きく頷いた。
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