「でも響さん、あんまし変わんないですね。高校の時も女子どもが超クールビューティとか騒いでた。超超クールって」
井原の盛大な響賛美に、「今も女子どもが言ってる」と、響の前に座る東がちょっと上目遣いに響を見て笑う。
「俺? 何それ」
響はまともに聞き返した。
「響さん、ピアノしか見てなかくて、女子の視線とかてんで気づかないでしょ」
元気も井原に賛同するように言った。
「そうそう。ピアノだけしか見てなかったよな」
井原が笑いながら響の顔を覗き込む。
「待て待て、俺は結構周りの状況を把握してたつもりだぞ?」
心外だとばかりに、響は井原に反論する。
「自分以外は見えてたよね」
井原はハハハと笑う。
「俺をバカにしてるのか?」
「まさか」
井原は大仰に肩を竦めて見せる。
「俺はほんとに響さんとまたこうして一緒に居られるのが嬉しいんです。響さんもそうでしょ?」
また響の顔を覗き込んで言う井原に、響は少したじろぐ。
「お、おう……まあ、そうだな」
「今度、部屋を見たいんですけど、付き合ってくださいよ」
唐突に話が変わった。
「部屋?」
響が訝し気に問い返す。
「俺が部屋を決めると、何かいつもはずれで、結局、何度も引っ越す羽目になって」
「まあ、向こうは家具付き多いし、そう困らないだろ。お前はでかいピアノもないし」
響ももともと引っ越しとか嫌いなのに、付き合いが終わった頃には居づらくなって引っ越しを余儀なくされた。
今も本当は父親がいる実家ではないどこかに決めて暮らしたいと思っているのだが。
「ああ、ピアノの引っ越しって大変そうですよね。ピアノ、向こうから送ったんですか?」
「でかいスタンウエイ、居間にはグランドピアノ二つとアップライト二つがひしめき合ってるよ。ってか、お前、引っ越すの?」
響は改めて聞き直す。
「ええ。まあ学校から車で二十分以内ってとこかな」
「だって、お前、実家にいるんだろ?」
姉が家を出たのなら、親と一緒に住むつもりで帰ってきたのではなかったのか?
確か井原の部屋もそう狭くはなかったはずだ。
「日本は割と親と同居とか、二世帯とか多いけど、向こうに長くいると、親の家に一緒にいるなんて肩身が狭いっていうか、独り立ちはしないとね」
「悪かったな。いい年して親のうちにいて」
響は眉を顰める。
「だって響さん、一緒に住んでるわけじゃなくて離れでしょ?」
「同じことだろ? 一応、いくらかは入れてるんだぞ、これでも」
微々たる金額だと言えばそれまでだが。
増築の費用もかさんだし、当分は現状維持で住まわせてもらうしかない。
折り合いの悪い父親がいる実家に住みたいわけではなく、当初は不動産屋に行ってはみたのだ。
だが、大きなグランドピアノが置ける住居などそう簡単には見つからず、一軒家ならと言われたが、家賃は高い上に、広い部屋に住むことに慣れてしまった響には、ウサギ小屋と称される狭さは圧迫感すら覚えて、部屋を借りるのは早々に断念した。
「いや、響さんはほら、ピアノっていう特殊なモノがついてるんだから、しょうがないんじゃないですか?」
すっかり二人だけで話が進んでいるのを目の当たりにしながら、元気と東は顔を見合わせた。
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