そんなお前が好きだった72

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 響や東の在学時にもウエーブの伝説は伝えられていたが、もどきをやったクラス数名がいたくらいで、それもサボりたいだけの動機だったから、相手にもされなかった。
「ウエーブって、マジで?」
 意外過ぎる出来事に響も唖然となった。
「らしいです。ちょっと職員室でも問題になってるみたいで。教室で何せ荒川先生の言葉に全く反応せずで、荒川先生パニクって半狂乱で職員室に駆け込んだとか何とか」
 東も困惑気味に言った。
「何で? 荒川先生、男子にはかなり人気高いって聞いてるぞ」
 いくら響にとっては魔法使いとも思われた荒川だが、さすがにわけがわからない。
「そうなんすよね、美人でエロいとか、肉食系とかって、……いや、俺もよくわからないんだけど、三年のほら、T大医学部合格圏内の瀬戸川と寛斗のクラスと、入学早々美少女伝説作った一年の青山のクラス?」
「………………はあ?」
 この符号は何だ?
 瀬戸川と寛斗のクラス?
 青山?
 どちらも音楽部員で響もよく知っているメンツだ。
 響は胸騒ぎがした。
「それがどうも、三年、言い出しっぺは寛斗らしいとかって話で、もうSNSでも飛び交ってるって」
「寛斗が?」
 さらに寛斗が発端という事実に、響は怪訝な表情を隠せなかった。
 なんで寛斗がそんなこと………。
 午後の授業中も時たま気になって気もそぞろになるのをどうにか堪え、とにかく放課後を待って、響は音楽室にやってきた寛斗に問い詰めた。
「ちょっと聞くが、荒川先生の授業で、お前がウエーブしかけたって本当か?」
「ありゃ、すげえ最近情報伝達スピードの速いこと!」
 お茶らかす寛斗に、「何だってそんなことしたんだ?」と響はさらに突っ込んだ。
「キョーちゃん、怒った顔も可愛い!!」
「ざけるなよ!」
 ちょうどその時、瀬戸川や榎、それに青山ら一年グループもやってきた。
「下手すると職員会議で問題になって、お前、呼び出されるかもなんだぞ!」
「まあ、そん時はそん時で」
 響の脅しにも相変わらずへらへらと寛斗には反省の色などまるでない。
「私なんです」
 そこへ割り込んだのは瀬戸川だ。
「私が寛斗に話したもんだから、寛斗がクラスでウエーブやろうぜみたいなことを言ったために、男子がノリでやろうとか言いだしたんです」
「瀬戸川さん……」
 響はいつものように毅然とした言い回しで説明する瀬戸川を見つめた。
「話したって、何を?」
 瀬戸川は一瞬口を噤んだが、チラリと青山の方を見た。
「実は、聞いてしまったんです。荒川先生がキョー先生に話しているのを」
「私も一緒でした」
 青山が追随した。
「マイノリティに対する脅迫染みた発言は、はっきり言って教員として許せないと思いました」
 まさしくはっきりと青山は断言した。
「教育者である前に人間として荒川先生は、私の中では最低ラインまで降格しました」
 美人な上にこうまでクールに断罪の言葉を口にされると、された方は心が折れそうだと響はつい同情した。
「別に荒川先生を苛めようとかってつもりはなくてさ、ちょっとした懲らしめバージョン?」
 寛斗もあくまでもコケにしたような言い草だ。
「確かに、青山の言いたいことはわかる。わかるが、お前らのやったことは、逆パワハラじゃないか?」
 溜息をついて、響は静かに戒める。

 


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