豪も井原も身体の作りが違う人種じゃないかと思うくらい、ガッシリ体系だ。
「豪って、ジムかなんかで鍛えてるとか?」
自分の非力な上腕と目で見比べて、響は聞いた。
「え、俺? うーん、高校まで空手とかやってたくらいで。あとはガテンバイトとか? バンドの連中、多いっすよ。コンビニとかよりギャラが大きいし。元気はでもバーとかカテキョとかしてたみたいだけど」
「俺、バイトとか経験なくて」
「え? 一度も?」
豪に思い切り意外な顔をされて、響はちょっとたじろぐ。
「あ、でもヨーロッパでは演奏会でドサ回りやってたけど」
「ドサ回りって…………」
リビングに戻ってきた井原は、響と親し気に話し込んでいる豪を見て、眉を顰めた。
「井原、お前、顔に出過ぎ」
元気が笑う。
「おい、元気、ちょっと」
井原は元気の腕を取ってキッチンに連れて行く。
「何だよ」
「その、豪ってほんとに、お前の、その、なんだよな?」
「はあ?」
「だから、他に目移りするとか、ないよな?」
元気は呆れて井原を見上げた。
「さあ。最初は可愛い彼女連れてたぜ?」
「何だよ、それ!?」
わざとそんな言い方をする元気に、井原はちょっと声を荒げる。
「ったくお前、バカ? こんなとこに俺を連れ込んで、響さんをやきもきさせる作戦かよ?」
「え、何言って……」
元気の言葉に思わず井原が響の方に目をやると、響ともろに視線が合致あった。
響はすぐに視線をそらしたが、まさしく元気の指摘の通り、元気をキッチンに連れて行った井原が気になってしまったのだ。
あたふたする井原を置いてキッチンから出てきた元気は、こいつら、全くどうしてくれようと苛つきながらも、さっきまでの嵐がウソのように、太陽の光さえ見えてきた外のようすに目をやった。
「小やみになったな」
その時、バスルームから東が出てきたが、Tシャツは縦は何とかでも、短パンも含めて全体的にミッチリ感が甚だしい。
「東い、お前、パッツンパッツンじゃないかよ」
揶揄されるのはわかっていたようで、「うるさい!」と元気の笑いを一蹴して、ソファに腰を降ろした。
烏の行水で井原がシャワーを浴びて出てきてようやく全員がそろったところで、井原はソファの向かいに立った。
「や、ほんと、今日は皆に手伝ってもらって助かった! お待ちかねみたいだから、とにかくありがとう!」
井原がノンアルコールビールの缶を掲げるとそれぞれ缶をぶつけ合う。
「これから徐々に足りないもの揃えるから、飲みたいやつ、遠慮なく来ていいぞ」
井原はソファの向かいに直に床に座って宣言した。
「おお? 太っ腹な発言!」
「東、絵も頼むぞ。この壁にドーンとでかいやつ」
バクバクと鮨を口に入れている東は、ただ頷いた。
「そっちの壁な。窓の真向かいだと陽ざしがもろ当たるから、絵の具が変色する」
ようやく飲み込んでビールをごくりとやってから東が言った。
「しかしさ、俺は講師だから、もらうもんも微々たるもんだけど、新任の教員てそんな給料いいのか? 家具にしろいいもん揃えてるみたいだし、結構な散財だったろ?」
東でなくても響も同じようなことを考えた。
響は演奏会などでちまちま貯めたものを離れの改築やらピアノの運送料、それに中古だが車関係でほとんどを使ってしまった。
井原は車も新車だし、家具や本の類、パソコン関係にしても、大学院生だった井原にとってはかなりな出費じゃないかと思ったのだ。
「帰って来てくれたってんで、親が出してくれたとか?」
元気が聞いた。
「いや、それな」
井原はちょっと言いにくそうに切り出した。
「実は、大学で、プロジェクトの一環として某企業と提携してエンジンパーツの開発に顔突っ込んでて、特許取ったりで、多少入ってきたんだ」
「何い? じゃあ、つまり、仕事やらなくてもいいってことかよ?」
東が身を乗り出した。
「知人と共同経営で会社もやってたり。ちょっとしたシステムが売れてさ」
「おっと、青年実業家ってやつ?」
元気が茶化す。
「うちは私立だから、副業やっても何も言われないし、そこは助かってる」
「じゃあ、何で教師なんかやってんだよ?」
響が根本的な疑問をぶつけた。
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