そんなお前が好きだった82

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 響はずぶぬれのままバスルームへ飛び込んだ。
「響さん、Tシャツと短パン、それにバスタオルここに置くから」
 ぐっしょりなシャツやらパンツやらなので、バスルームの中で脱いでいた響は井原の声に、「悪いな」と返事をした。
 本当はタオルとかを買いに出たはずなのに、逆に迷惑をかけてしまったと、響は大きくため息をついた。
 それでも熱い湯は水の中で冷えた身体を少しずつまともにしていった。
 ここに着いた時、実際さっきのトイプードルではないが、小刻みに震えていた。
 いや、俺より、井原や豪の方が何度も水の中に入って、さっきの婦人を救助したりで、冷え切ってるに違いない。
 響は何とか寒気がおさまるくらい湯をかぶると、早々にバスルームを出た。
 さっき、豪が設置していた洗濯機の上に置かれたシャツやバスタオルを取ると、濡れた衣類を洗濯機に放り込み、バスタオルで身体を拭いた。
「お先。洗濯機に濡れた服放り込んだから、皆のと一緒にあとで洗うよ」
 リビングはエアコンで少し暖かくなっていた。
 三人は濡れたシャツを脱いで下だけになっていて、「お前ら、面倒だからまとめて入って来いよ」などと元気にうっとおしがられている。
「無理だろ。さすがにこのバスルーム、狭すぎ」
 井原は文句を言いつつ、豪に入れと促した。
「少しはあったまった?」
 リビングのテーブルには、鮨やサンドイッチなどが並べられ、すぐにも宴会に突入できそうになっていたが、我慢できなかったらしい東や豪、井原はポテトチップスなどを早速つまんでいる。
「車、冠水ですって? コーヒーとノンアルどっちがいい?」
「じゃあ、ノンアル」
 プルトップを抜いてノンアルコールビールを響に差し出しながら、元気が尋ねた。
「面目ない。うっかりアンダーパスなんかに入っちまったために、皆に迷惑かけて」
 恐縮しきりな響を、「いや、不可抗力ですよ。あれは誰も予測不可ですって。電光掲示板も俺らが辿り着いた時まだ、通行不可になってなかったし」と井原が庇う。
「確かに、最近の急激な雨量って半端ないし。響さんこそ、車ダメになっちゃったし、とんでもない災難でしたね」
「やっぱ、ああなると、使いもんにならないよな」
「まず、無理かな」
「まあ、安く買った中古だし。当分は歩くわ」
 サバサバと口にした響は、くしゃみを一つした。
「え、大丈夫ですか?」
 井原が心配して響に歩み寄った。
「平気……」
 ジムで鍛えたという井原の上半身をすぐそばに見て、響は何か言おうとして言葉を飲み込んだ。
 さらに微妙なタイミングで雨の中どさくさに紛れて抱きしめられたことがフラッシュバックして、かあっと顔が火照りだし、慌ててノンアルコールビールをゴクゴクと飲む。
「響さん、顔赤いですよ、やっぱ風邪引いたんじゃ」
 傍でおろおろする井原に、「ほんと、平気だから。鮨とか食えばもとに戻るし」と思い付きを口にする。
「え、じゃ、響さん、先に食べてください」
「いや、皆と一緒で大丈夫だって」
「上がった。次、入って」
 早く井原に離れてくれないかと思っていた響には救いの豪の一言だった。
 ホカホカと湯気が立ちそうに出てきた豪は、井原のTシャツがぴったりという感じなのが、井原はちょっと気に食わない。
 東がバスルームに消えると、豪は用意してあったノンアルコールビールを手に取った。
「お、これ、飲んでいい?」
「お前は、ちょっと待てないのか」
「だって、喉かわいちゃって。響さん、飲んでるし」
 元気に睨まれつつも豪は既にプルトップを開けている。
 井原が東のためのシャツを取りに行っているうちに、豪は響の横に座って豪快に一缶飲み干した。

 


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