「えと、ハンマーがない時は、ヘッドレストを引っこ抜いて、隙間に入れてガラスを割る………」
慌てて、冠水した車からの脱出方法を携帯でググると、そんなことが書いてあった。
響は実際やってみようとするが、手が強張っていてヘッドレストがなかなか抜けない。
ようやく抜けたものの、今度はヘッドレストの先端をドアとガラスの隙間に入れようとするが、焦っているせいかこれもうまくいかない。
「……って、俺ってここまで非力だっけ……」
ガチャガチャやっているうちに、車の外はさっきより水面が上がっているきがする。
「くっそ、どうすんだよ、もっと水量増えたら」
独り言ちながら不安そうに窓の外を見てもどうにもならない。
前の車も動かないし、やはり外にも出られないようだ。
その頃、響のSOSに返事もせずに、飛び出そうとした井原を、豪が追った。
「何かあった?」
「響さんがアンダーパスで水没したって」
慌てて自分のジープに乗り込み、エンジンをかける井原を追って、豪は助手席の窓を叩く。
「ロープとか持って行った方がいい」
東も飛び出してきて、軽トラに取り付けてあったロープを外して抱えると後部座席に乗り込んだ。
土砂降りの中をジープは疾走した。
飛ばしに飛ばして、アンダーパス近くまで来ると、傍のコンビニに車を停め、井原は雨の中へ飛び出した。
豪と東も後に続き、アンダーパスを覗くと、二台の車がドアが開かない程水没して立ち往生していた。
ハンマーを手にアンダーパスに向かって水の中に入っていく井原に、豪がロープの端を渡す。
井原にしてみれば響のことだけしか頭になく、水圧も何のそので後ろに停まっている響のヴィッツに辿り着くと、助手席側から窓を叩いた。
「井原……」
井原の顔を見た途端、響は不意に目頭が熱くなって、ポロリと涙が零れ落ちた。
井原が持っているハンマーを見せて何か言っているが聞こえない。
だが振り下ろす振りに響は頷いた。
すぐにハンマーがサイドガラスを割り、やがて粉々に砕け散ると響は井原に引き出されて外に出た。
井原は響を抱えたまま豪や東が引っ張るロープを掴んで水の中から這い出した。
「……助かった、悪……い……」
アンダーパスから井原に引っ張られて這い上がり、まだ強い雨が落ちてくる地面に這いつくばるようにして声を出す響を井原は抱きしめた。
「ったく! 俺の方が死ぬかと思った!!!!」
井原は吐き出すように言った。
ずぶぬれになりながら響を離さない井原を放って、豪はもう一台の方へと水の中に入っていく。
東が電柱に先を縛り付けたロープを握りしめて様子を窺うと、豪が中の運転手と手振りでコンタクトを取り、サイドガラスをハンマーで割った。
乗っていたのは年配の女性とトイプードルで、豪はまずトイプードルを抱えて水量が増した水の中を引き返し、井原に渡した。
「響さん、この子ちょっと持ってて」
響が井原からトイプードルを受け取ると、井原は豪のあとから女性の救助に向かった。
トイプードルは震えていて、頼りない小さな犬を響はしっかり抱きしめていた。
やがて豪が女性を中から引き摺りだすと、井原も女性の腕を取り、何とか水の中から上がることができた。
しきりとありがとうございますを繰り返している女性と犬も一緒に井原と響はジープに乗り込むと、まず女性をバイパスの向こうにある家まで送り届けると車に戻り、井原の新居へと取って返した。
豪と東はアンダーパスでロープやらを取り外したが、雨はまだ降り続いており、軽トラで先に井原の家に着いた。
二人が帰ると元気が飛び出してきて驚いた。
「うわ、何、皆びしょぬれ! どうしたんだ? 帰ったら誰もいないし、携帯も出ないし」
豪と東が事の次第を説明しているうちに、井原と響も戻ってきた。
「悪い、俺がドジ踏んじゃって」
響が情けない顔で言った。
「そうだ、とにかくシャワー、響さんからどうぞ。着替えはみんな、俺ので申し訳ないが段ボールから出すから使って」
井原がてきぱきと指示すると、さっき運び込んだ段ボールを出しに行った。
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