「うわっ! すみません、大丈夫ですか?」
我に返った井原は慌てて態勢を整えた。
「あ、ああ、平気」
「じ、ゃあ、よろしくお願いします」
飛び出すように部屋を出て行った井原だが、ジンジン痛む足の指もそっちのけで、そのまま洗面台まで行くと、バシャバシャと顔を洗う。
「何だ? 井原?」
キッチンで冷蔵庫を設置していた東が怪訝な顔で井原を見た。
実はチラリと二人の様子が目に入ってしまった元気は、「中坊でもあれはない」と首を横に振りつつ、ボソリと呟いた。
洗面台の近くで洗濯機を設置していた豪は、「このあたりでいいっすか?」と井原を振り返った。
「ああ、OK! バッチリ」
井原が首にかけていたタオルで顔を拭いているのを見て、「やっぱ、タオルとかそういうもん、あった方がいいっすね。俺、買ってきましょうか?」と豪が言った。
「テーブルの上拭いたりするモンとか、洗剤とかあった方がいいよな。いいよ、力仕事は豪とかに任せるから、俺、買ってくるわ」
さっきの井原との密着からまだ胸のドキドキが収まりきらない響が提案した。
「んじゃあ、俺は、何か食いもん調達してくる」
モップを片付けると、元気が響に続いて玄関に向かう。
「雨も心配だし、別々に行った方が時短になるよな」
「そうしましょっか」
響は元気と一緒に外に出た。
「スリッパとかいるよな。脱ぐと裸足だし、井原、靴脱ぎたくないとかって言ってたが」
「ですね。それは自分で家建ててからにしろってやつでしょ。まあ、土足生活長いとやっぱそうなるかな」
「俺も、段差ないから、忘れるとこだったわ。靴紐とかめんどくさいし」
「まあわからないでもないけど」
元気はスーパーへ、響はホームセンターへと車を回した。
走り出して間もなく、ポツリポツリと雨が落ちてきた。
「降ってきたか」
響はフロントガラスの向こうにかなりどす黒い雲の渦があるのを見て、「帰るまでにひどくならなければいいけど」と呟いた。
だが、雨の大きさが次第に大粒になり、徐々に音が大きくなっていく。
バイパスへ向かうために右折したところで信号が赤に変わった。
どうやらさっき見た黒雲のちょうど下に入ったらしかった。
ワイパーを最強にしても追いつかなないくらいの雨がゴオという音に代わり、さらに雨量が増した。
青になったようだと、前の車のテールランプを頼りに走り出したものの、アンダーパスに差し掛かったところで、半端ない雨が車に叩き付ける。
早く通り過ぎてしまいたかったにもかかわらず、前の車がアンダーパスの底で停車した。
「おい、ウソだろ、こんなとこで……」
アンダーパスを抜けたところにある信号に引っかかったらしく、上り坂で車が数珠繋ぎになっている。
上の方の車が動き出した、と思った瞬間、ゴウゴウというものすごい音とともにまさにバケツをひっくり返したかのようなゲリラ豪雨に見舞われた。
「うわ……」
水量が増したのはその直後だった。
通行止めの措置も間に合わないくらいあっという間の冠水だった。
「やば……」
車は動かない。
水量はどんどん増していく。
ドアを開けようとしても開かない。
パワーウインドウも動かない。
「しまった………ハンマーとか入れるの忘れてた………」
どうしよう、と思った響だが、次第に危機感が現実味を帯びてくる。
咄嗟にポケットから携帯を取り出した。
「響さん? 大丈夫ですか? 雨ひどくなってきたし」
心配そうな井原の声に、響は少し安堵した。
「それが、悪い、アンダーパスで冠水して車動かない………」
「え、ちょ、どこです!?」
「駅の近くのアンダーパス」
電話はいきなり切れた。
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