そんなお前が好きだった79

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「おい、気をつけろよ、望遠鏡、高かったんだから」
「大丈夫っすよ」
「本かよ、この箱、えっらい重い」
 やがて玄関が開いて、口々に言い合いながらそれぞれ荷物を手に豪、東、最後に井原が入ってきた。
「あ、響さん、貴重な休みにありがとうございます!」
 響を見つけた井原は、今までと変わりなく笑顔で声をかけてきた。
「ああ、雨になりそうだから、早いとこ掃除だけやった方がいいよな」
 適当な返事をしながらも、何となく響は井原の顔をまともに見られない。
 井原はそんな響に少しがっかりしたものの、めげるなよ、と自れを鼓舞する。
「こっちでいいんすよね?」
 豪が望遠鏡を四畳半に運んでいく。
「おう、東のは六畳間」
 井原も東に続いて箱を運び入れる。
「何だよ、元気のやつ、引っ越しに彼女連れてくっつったくせに」
 よっこいしょ、と箱を置いた東は井原を振り返る。
「あのさ、元気の彼女ってか………」
 東はそこで言葉を切る。
「ああ? 何だよ? そこで途切れるなよ」
 井原の顔を見て東は、ちょっと肩を竦めた。
「ま、いっか。東京から元気追っかけてきて、この街に移り住んだって言っただろ? あいつだよ」
「は?」
 井原は訝し気に東を見つめた。
 確か、飲み会の時に、元気の彼女の話になって、東がそんなことを言っていた気がするが。
「あいつって」
「坂之上豪。学生の時から元気一筋で、ボーカルの一平と元気を取り合って、一応豪の勝ちってとこか?」
 そういえば、連れて行くって元気が行った時、役に立つとか何とか………。
「おい、元気!」
 井原はモップで床を擦っている元気のところに歩み寄った。
「何だよ?」
「あいつのことかよ? 彼女じゃないじゃん!」
 思い切り豪を指さして井原は文句を言った。
「お前だろ? 勝手に。俺は彼女とか一言も言ってないし」
「どうかしたんすか?」
 井原は、目線が大体同じだが、Tシャツの下の上腕筋やガッシリ系の肩幅といい、負けている気がして傍にやってきた豪を睨み付けた。
 いや、若干だ、負けてるっつっても。
「早く運び込めよ。雨、降ってくるぞ」
 元気が促すと、井原と豪は慌てて外に出て行った。
「でかい家具が届くんだろ? 雨が降らないうちに来ればいいけど」
 響がさらにどんよりと暗くなりかけている空を見上げた。
「だな。中に入れてしまえば後は何とかなると思うけど」
 元気も頷いた。
 荷物を運び入れてから二十分くらいしたところで、家具が届いた。
 スタッフが手伝ってソファをリビングに運び入れると、豪と井原もデスクや書棚を六畳間に運んだ。
 響が手伝おうとすると、「任せておけば大丈夫」と元気がやんわりととめた。
「お前さ、カーテンとかマットとかもついでに買っておけよ」
 大きなソファセットが陣取ったリビングを見回して、元気が文句をつけた。
「時間なくてさ、そこまで手が回らなかったんだよ」
「井原、書棚にこれ、どういう順番で並べるんだよ?」
 六畳間から響が呼んだ。
「あ、すみません」
 井原は座り込んで本を取り出している響の横に膝をついた。
「えと、一応、アルファベット順に入れてきたんで、多少違ってもいいっすよ」
 開けた段ボールを井原は順番に並べた。
「これ、Dが混じってるぞ」
 響が取り上げた本を見て、井原が「あれ、慌てて突っ込んだから、それこっちもらいます」と歩み寄ろうとした途端、箱に足の小指を強かぶつけて、しかもその拍子に響の上に倒れ込む寸前のところで、膝でとどめた。
 が、井原の顔がほとんど響の頭の上に密着状態になってしまった。
 耳から首筋へ井原の吐息をもろに受けた響は固まった。
 身体中の血液が逆流したかのように心臓がバクバクと音を立てている。
 一方、響に折り重なるようになっている井原も、響をもろに感じて、カッと頭に血が上った。
 その間、約数秒、だが、当人たちにはまるで何十分もの長さに思われた。

 


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