「あいつ、お客さんのこと気に入ったんじゃないすか? どうです? あいつの里親になりませんか?」
いきなり寛斗が響の傍に来て言った。
「は?」
「ヒロってば、失礼でしょ、藪から棒に!」
「ほら、ゴマスリアウモタショウノエンとかいうじゃないですか」
寛斗は、そう言ったかと思うと、先ほどの猫を抱いて戻ってきた。
「ちょっとお、ゴマスリとかって、ヒロ、慣用句もまともに言えないで、マジで医学部なんか目指すつもりなの?」
「まあまあ、固いこと言いっこなし」
朱莉の忠告も無視した寛斗に、はい、と唐突に猫を差し出された響はついその子を抱いてしまった。
「あら、おとなしい」
「おっ、田吾作、この人に決めたか?」
朱莉がちょっと驚いたように見つめ、寛斗はニヤニヤと笑った。
祖父の葬儀に乗じて帰郷した響は、また袖すり合ったのを機に猫を飼うことになってしまった。
朱莉の夫は近くでペットクリニックを開業していて、猫たちの健康管理は怠らないのだと説明された。
寛斗は高二で、三島医院の息子だということもわかった。
三島医院といえば代々医師の家系で、響もよく知っていた。
「もううちは上の姉貴が医学部行ってるから、ついでに行くだけだから」
などと寛斗はへらっと笑う。
「ちょっと、ついでとかで医者なんかにならないでよ! 命を預ける気になれないわ」
「何だよ、朱莉が医者になってれば、俺も医学部とか行かなくてもよかったのによ」
「あんなへっぽこでサッカー選手なんかなれるわけないでしょ? あたしは人を切り刻むような仕事は絶対無理なの!」
「とか言って、医者と結婚してんじゃん」
「雅哉は獣医だもん」
「切り刻むのなんか同じじゃん!」
姉弟が仲良く喧嘩をしているのをよそに、響は腕の中でゴロゴロ言い始めた猫を優しく撫でてやった。
その時はもう、うっかり、その手触りや可愛さにとっくに響はほだされてしまっていた。
店では猫グッズの販売をしていて、寛斗がてきぱきとキャリーケースやトイレセット、キャットフードなどをひと揃えまとめてくれた上、朱莉が猫ともども響を車で送ってくれた。
「この子、一歳になります。うちで保護した時はまだ乳飲み子で、段ボールに四匹うちの前に捨てられてて、ほんと! 顔合わせてたらそいつぶっ殺してたとこだわ!」
「他の子は皆女の子でもらわれてったんだけど、こいつやんちゃ盛りの雄ででかいから残っちまって。懐っこいんだけどなあ、田吾作」
運転しながら朱莉が物騒なセリフを口にするのをよそに、一緒についてきた寛斗がのんびりと後ろでキャリーケースの猫に話しかける。
食事でもして帰ろうと思っていた響の財布はいきなり結構な出費となったが、思わぬ拾い物をしてしまった割には、この可愛い生き物と暮らすことへの興味が強かった。
いずれは適当な家を探すつもりだったが、父親にはしばらく家に置いてもらう代わりに食費家賃を入れるということで取引は成立していたものの、猫を飼うことまでは考えていなかった。
「何か困ったことがあったらいつでもご連絡ください!」
離れへ荷物を運ぶのを手伝ってくれた寛斗は満面の笑顔でそう言い残し、三島姉弟が帰った後、寛斗が初めて会った気がしなかったのは、雰囲気が井原に似ていたからかも知れないと響はふと思いあたった。
寛斗と同じ高校二年生の頃の井原は寛斗よりは大人びていた気がするが、笑顔の絶えないやつだった。
面倒見がよくてお調子者、何でも率先してやる、クラスに一人はいそうなタイプで、男女問わず教員たちにも好感度が高かった。
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