響が思うよりかなり井原は響のことを好きでいてくれたらしい。
思い余るくらいに。
過ぎてしまった十年という時間は取り戻せないが、それだけの時間が経っても互いに好きだというのは奇跡のようなものだ。
無論、井原には井原の十年があって、コンシーラーのことを教えてくれたという同僚が女性であるだろうことはその意味やシチュエーションを考えれば推測できる。
それなりのつきあいだってしてきただろう。
響ですらクラウスとの三年があったくらいなのだから。
でも、申し訳ないけど、クラウスとの三年より今日一日の井原との時間の方が密度で勝っていた。
それに………。
響は考えただけで頬が熱くなるのを感じる。
井原ではないが、響はどれだけでも井原となら一緒にいられるような気がした。
井原が仕掛けてきたら、まるで吸い寄せられるみたいに身体は勝手に応じてしまうだろう。
自分でも信じられないくらい井原が好きらしい。
こんな思いをどうしたらいいのかわからない。
溜息をつく回数がにわかに増えてしまった。
響がベッドに入ろうとした時、携帯が鳴った。
井原の名前が携帯の画面にくっきり浮かんでいた。
「はい」
「もう寝てました?」
「いや………」
声を聞いた途端、どうしたわけか身体も目頭も熱くなる。
「何か、寝られなくて……これ、実は夢でした落ちとかじゃないよなとか思って」
「何言ってるんだよ」
抗議のはずの声が心なしか甘くなってしまう。
不安なのは自分だけじゃないのだ。
響は改めて思う。
「それより、車、手続きとかやってくれてありがとう。礼を言うの忘れてた」
「そういうの、任せといてください。まあ、あれ、中古だし、結構距離いってたでしょ。水没じゃなくてもそう長くは乗れなかったっすよ」
「まあな。格安で買って、今年中に車検ってやつだったし、オシャカになってもさほど愛着というほどでもなかったけど、この辺り、車なしで生きて行けないしな」
井原とこんな何気ない話ができることさえ、響は嬉しさを隠せない。
「車、買うなら俺に任せといてください。車種とか言ってくれれば、探しますよ」
「うん、でも、金ないし、新車とかはまず無理だし、乗れたらってとこだから。あ、でも軽はムリ。クソとろいし、むしろ高いだろ、中古でも」
「そうですね、俺も軽は進めないな。万が一もらい事故でも軽だと重症化する可能性大だし、できれば頑丈なボルボとかベンツとか」
「んなもん、買えるわけないだろ! 確かにベンツは頑丈だったな。向こうで乗ってたから」
「何でそれ持ってこなかったんです?」
井原が声高に抗議する。
「車なんか持ってこれるか。俺向こうで免許取ったから切り替えとか超メンドかったし」
「俺は高校卒業してすぐ免許取ったから、更新の時は里帰りしてました」
そうだよな、俺と違って家族が仲いいし。
俺なんか二度と帰ってきたくもなかったのに。
でも井原に会えただけで、帰ってきてよかったと響も今は思う。
「でも日本で一人暮らしって、結構色々揃えないとですよね。向こうにいた時、たまに引っ越したけど、大抵家具付きだったから」
「俺もキッチンとバスルーム改築した時、洗濯機とか冷蔵庫とか入れたから物入りだったな」
「あ、でも洗濯乾燥機、奮発していいやつにしてよかった。朝からフル回転」
こいつは恥ずかしげもなく!!
響は思わず拳を握る。
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