そんなお前が好きだった91

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「GW、どっか行きませんか? レッスン休みとかにして」
 すぐ話題を変えて、井原はそんなことを言い出した。
「レッスンは、生徒の方もいろいろあるらしいから休みにするつもりだけど、どこかってどこだよ」
「うわ! じゃ、俺いろいろピックアップしてみますね!」
 途端に井原の声がハイになる。
「その前に、コンクールあるし、とにかく瀬戸川の高校最後のチャレンジだから、できる限りサポートしてやりたいし」
 スリっと手に柔らかいものを感じて見下ろすと、いつの間にかにゃー助がベッドに上がってきていた。
 響が撫でるとゴロゴロと喉を鳴らしている。
「そうですね。二十九日の車の方は準備万端整えておきますから、心おきなく練習を見てやってください」
「ほんとにいいのか? 東も」
「二言はないっすよ。あ、東、GW中には絵、仕上げて持ってくるっていってました。また見てください」
「ああ。んじゃ、にゃー助がまだ寝ないのかって文句言ってるから、そろそろ切るぞ」
 すると、電話の向こうで、ううっと唸るような声が聞こえた。
「……クソ、俺もにゃー助になりたい」
「アホか、じゃ、お休み」
「おやすみなさい」
 携帯を切ってからも響はしばらくそのままぼんやりしていた。
 にゃー助が今度はフミフミを始めたので、響は「寝よっか」と声をかけて部屋の明かりを消した。
 しばらくするとにゃー助が毛布の中に潜り込んできた。
 柔らかなにゃー助を撫でてやりながら、いつにない幸せを胸に響は目を閉じた。
 
 

 
 世の中はGWに突入し、明日から五月を迎えようという週末の夕方遅く、伽藍のドアが開いてひょいと顔を覗かせたのは井原だった。
「部屋は片付いたか?」
 元気はちょっと疲れ気味な顔をした井原がカウンターに座るのを待って、声をかけた。
 店内はちょうど食事時を前に、観光客もあらかた引き上げて、窓際の席にカップルが一組残っているだけだった。
「いやまあ、片付くことは片付いたが、まだカーテンやら何やらいろいろ揃えるもんがあって、明日響さんに付き合ってもらうことになってる」
 元気は、響とどうなったとも聞かず、ふーん、と言っただけで、井原の前にいつものコーヒーを置いた。
「そう、それで、明日東が絵を届けるってんだけど、夜、打ち上げやらないか? ま、メンツはいつもの同じ顔だが」
 コーヒーを一口飲んで井原が言った。
「へえ、お披露目か、そりゃ見たいな」
「今度こそちゃんと客を迎えてもいいようにしとくし」
「おう、ジャックダニエルズでも持参するわ」
 元気は笑った。
「そういや、音楽部、コンクールで三位入ったって? ついでに行ったはずの東がえらく感激してたぜ」
「そうなんだよ。俺もうるってきちまって、ほんと」
 思い出したのか井原がまたウルウルしそうになっていると、またドアが開いて、響が顔を見せた。
「響さん、おめでとうございます! 三位入賞ってすごいじゃないですか」
 元気に言われて響もにっこり笑った。
「そうなんだ。今まで、ちょっと部のみんなと話し込んでて、まだいい?」
「どうぞどうぞ。響さんならいつでも歓迎しますよ」
 元気は井原の隣に促した。
「もし二位だったら、全国大会も夢じゃなかったんだけど、結構付け焼刃的に組んだメンバーで三位ってのはマジ感無量ってとこ?」
 響にしては熱がこもった声だ。
「これで一つ肩の荷が降りたって感じですね」
 元気は響の前にも今日のブレンドを置いた。
「そうだな。瀬戸川は満足しているみたいだし、寛斗も頑張ったからな、あいつ珍しく泣きそうになってた」
「瀬戸川は六月で引退? 次の部長は?」
「榎だろうな。志田は部には参加するが、受験に備えていろいろ忙しくなるし。一年も楽器が揃ったから、今日はみんな音を出して喜んでた」
「初めて楽器を持った時って、嬉しいもんですよね」
 しみじみと井原が頷いた。

 


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