「だから聞いてるんですってば」
「じゃ、耳かして」
恐る恐る藤堂の口元に耳を向ける浩輔に藤堂が言った。
「コースッケちゃん♪」
へ、と一瞬意味がわからなかった浩輔だが、「お先に~」ととっとと出て行く藤堂の背中を見ながら、やっと理解して、途端、カーーーッと頬を真っ赤に染めた。
そうだ、驚きの方が先にきてまだ礼も言っていない、気を取り直して、浩輔はパソコンの画面を睨みつけている河崎のところに戻る。
「あの、ありがとうございました…俺…」
「今夜はあそこに置いとけ。雪で動かねーだろ」
「まだ、仕事終わりそうにない、ですか?」
「これをやっちまうから、先、帰ってろ」
「はい」
プラグインを立ち上げてしばらく仕事がうまく入らなくて、もちろんある程度予想はついたとはいえ河崎が暇すぎて苛ついていた頃も気遣っていたのだが、青山プロダクションの仕事が入ってからというもの、寝る間も惜しんで飛び回る生活に戻り、河崎は食事もろくに取らないし、いくら健康に自信を持っているといっても、浩輔は河崎をはらはらしてみていたのだ。
実際、経済的には遊んでいたって暮らしていけるはずだが、河崎にしろ藤堂にしろ、仕事をしなければ明日にも生活がままならないかもしれないかのように動きづめだ。
だけど、仕事好きなんだよな~、二人とも。
仕事中毒以外どう表現したらいいだろう。
浩輔は三浦の分も一緒にコーヒーを煎れて持っていき、傍のテーブルに置いた。
「じゃあ、あの、ご飯作ってますから。お先に失礼します」
顔も見ないで「ああ」としか言わない河崎を残し、浩輔はオフィスを出る。
それでも、あらためて見る雪の中の黄色いビートルは浩輔の心をわくわくさせた。
河崎が帰ってきたのは十一時を過ぎた頃だった。
「お帰りなさい」
猫のチビスケが浩輔よりも先に河崎を出迎えている。
わりにうまくできたポトフの鍋に火を入れ、ちょっと焦げ付き気味だが、金目だいの煮つけもレンジで温めるだけになっている。
焼酎も準備万端。
「河崎さん、ご飯すぐ食べますか」
「風呂入る。メシはいい」
河崎はそういうとそそくさと寝室に行ってしまった。
あ~あ、っと思わず浩輔はため息をつく。
絶対河崎の体重は落ちている気がする。
昼は飛行機の中で食べたらしい。
だがここのところ、河崎はちょっとしたつまみに酒を飲む程度しか夜は食べていない。
出先ではちゃんと食べていたのだろうか。
河崎がどこかにいく時は、ちゃんと食べてくださいね、と言うのが口癖のようになっている。
浩輔も食べる気がおきない。
そういえば、チョコを何個も食べてしまったからかな。
「仕方ない、明日にするか…」
口にして食器を片付ける。
「浩輔」
ボーっと鍋を見つめていたらしい、いつの間にかバスローブの河崎が後ろに立っていた。
「お前、食ったのか?」
「何か、チョコ食べ過ぎて…。あ、焼酎、飲みますか?」
back next top Novels
