誰にもやらない21

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 しかも時間が限られているのだ、急き立てられるように、ああでもないこうでもないと浩輔はラフスケッチを続けたが、今日も半徹夜の顔で出勤し、既に二日目も終わろうとしている。
「アー! 駄目だぁ~~~~!!」
 浩輔はデスクに突っ伏した。
 カッコイイ女を描きや、などと佐々木に言い渡されたものの、描いても描いても思うようなものができない。
 しかもふっと手を休めると、やっぱり河崎が何か絡んでいるんじゃないか、などと思考は別の方向に向きそうになり、慌てて首を横に振る。
「やってるな、社運は浩輔の肩にかかってんやからなぁ」
 夜十時を過ぎた頃佐々木が戻ってきて、一人でやっている浩輔のデスクにコンビニの袋を置いた。
「またそうやってプレッシャーかけるぅ! 佐々木さん、なんとかしてくださいよぉ」
 浩輔はつい弱音を吐いてしまうが、佐々木は化粧品会社の次期シーズンのキャンペーンをはじめ目一杯仕事を抱えている。
 その上にC社のトラブルで、さすがの佐々木も悠長にかまえてはいられない。
「ウン、ええんやない?」
 コンビニの袋からプリン、サンドイッチ、おにぎりなどを出して隣のデスクに並べた佐々木はそこの椅子を引っ張ってきて座ると、浩輔の描きかけのデッサンを取り上げた。
「てぇんでフニャフニャじゃないスか」
「コースケってひたむきで可愛いんやけど、コン詰めるよか、何気にサラってのが、いいもんできたりするんやなぁ」
 佐々木はにっこり笑い、まだ不服そうな浩輔の頭をくしゃりと撫でた。
「はあ…」
 うわの空で返事をした浩輔はサンドイッチに手を伸ばす。
「よぉし、できたらご褒美にコースケの好きなもん、何でもおごってやるで」
「え、ほんとに? やったー!!」
 現金な声を上げたあとで浩輔は、「また、ご褒美、とか言うし…俺のことガキ扱いして」と、唇を尖らせた。
「いやいや、俺はお前と、ちゃんと大人のつきあいしたい思てるんやけどな」
 のらりくらりと論点を外す佐々木があくびをしている傍で、浩輔はその夜のうちに何とか数枚のイラストを仕上げた。
 佐々木はそれを受け取ると、よしよし、よくやった、とまた浩輔の頭を掻き回してから、帰ってゆっくり休め、と自分の部屋に戻っていった。
 この後佐々木にはそのイラストをプレゼンテーション用のファイルに組み入れるという作業が残っている。
 これ以上いても手伝えることもないだろうとは思ったが、佐々木にコーヒーの差し入れをすると、自分の席に戻った浩輔は、朝、佐々木に起こされるまで爆睡していた。
「わ、すみません、俺、寝ちゃってて……」
「何の、コースケちゃんの愛情たっぷりのコーヒーのお陰でバッチリ!」
「できたんですか?!」
 目にクマをこさえた佐々木は、多少いつもの美貌に影がさしているようにも見えたが、満足そうな笑みに、浩輔はほっと胸を撫で下ろした。

 


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