「どういうつもりか知らんけど、とにかく、これ以上浩輔にちょっかい出さんといてぇな」
怒鳴りつけたいところを佐々木は極力抑えて言った。
「そんなことを言いに、わざわざ来たのか?」
河崎はせせら笑う。
「そら、浩輔はウチの大事なデザイナーやしな」
「ウチのじゃなく、きさまの、じゃねーのか?」
「わかってるんなら、了解して欲しいもんやな」
河崎の目が眇められる。
「俺は、他人に口出されるのが大嫌いなんだ」
河崎はコートを翻し、女を助手席に乗せると、佐々木の前から走り去った。
「ほんま、何考えてんのんや、あいつ!!」
問題は河崎より浩輔だ。
コンペの時の、河崎を前にした浩輔の態度を思い起こし、佐々木はイラついた。
あんな切なげな目で河崎を追っているのを見れば、嫌でもわかるというものだ。
佐々木はしばらく腕組みをして考え込んでいたが、やっと自分の車に戻り、エンジンをかけた。
運命の裁きの日、暗澹たる思いで出社した浩輔を、佐々木は大仰に抱きしめた。
「コースケ、やったで!!」
「え、まさか……」
「ウチのプレゼンが通ったんや! お前の絵が宣伝部長にいたくお気に召したんやて!」
「ホントですか!?」
「やったねっ!! コースケちゃん」
直子もまだ半信半疑の浩輔に飛びついて喜んだ。
それから制作会社のCF撮りなどに立ち合いながら、浩輔は改めて英報堂での河崎のもとでの二年間の重みを感じていた。
他社に負けるような河崎を見たことがなかっただけに、複雑な心境でもあった。
しかもジャスト・エージェンシーのような弱小会社に。
同時に、何かの手違いであったとしても、自分をバカにしてきた人間たちに一矢を報いたような、そんな思いもあった。
自分の仕事が一段落すると、浩輔は、佐々木と一緒にCFの音楽を担当する『イリュミネ』のリハーサルに立ち会うことになった。
現在人気上昇中、四人組のロックグループだ。
特にボーカルのキョウヤの人気がすごい。
「あれ、ササキぃ、カワイイぼうや連れてる」
スタジオに着くなり、馴れ馴れしい調子で、頭をピンクに染めたキョウヤが近づいて来た。
彼らは佐々木と以前にも一緒に仕事をしていたことがあるらしい。
「あー、奥さんに去られて、ついにソッチに宗旨変えしたとか?」
「ウチのデザイナーや。苛めんなや」
「へえ? 新入社員? ボウヤ、何て名前?」
「西口浩輔です。よろしくお願いします」
ボウヤなどと言われて、少しムッとしながら、浩輔は自己紹介する。
話してみるとざっくばらんで愉快な連中だった。
「ササキ、俺の小学校のいくつか上?」
「そうなんだ?」
しかも浩輔が同年配とわかると、「ウッソー!!」と、キョウヤが素っ頓狂に驚いてみせる。
むくれた浩輔をケラケラ笑っていたメンバーは、やがてそれぞれのパートでスタンバイした。
ところは汐留、英報堂ビルの高層階では、藤堂が珍しく眉根を顰めて歩いていた。
「三浦ちゃん、河崎は?」
営業部を覗いた藤堂は、デスクでノートパソコンに向かっている男に問い質した。
「はあ、昼から姿を拝見しておりませんが」
きりりとした応えを返す三浦は、浩輔が辞めてから何人もの部下が入れ替わった後、藤堂がヘッドハンティングした現在の河崎の部下である。
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