この弱小広告代理店にはもったいない程の実力の持ち主と言われている芸大の院出身の佐々木周平を筆頭に、デザインセクションは他の三人ともに芸大や有名私立美大出身者で構成されているが、浩輔の場合、大学は経済学部だし、前の会社を辞めた後にフィレンツェで美術学校に通い、たまたま彼の絵が賞をもらった程度の経歴だ。
浩輔は時々、ひょっとして佐々木さんの気紛れで入社できたとか? と思うことがある。
帰国して仕事を探していた時、絵を描く方が楽しいな、なんて思っていたところに目についたデザイナー募集の広告。
面接したのは佐々木だった。
わ、美人! 男性、だよな?
浩輔が思わず声に出さずとも自問したくなったのも無理はない。
さり気に結んであるが、天パーらしくゆるやかにカールした柔らかな髪は肩を越え、何せ年齢不詳、優雅で甘さを残しながらもクールに整ったマスクの佐々木は、ざっくりしたセーターなんかを着て座っていれば、ついつい男でもフラフラと言い寄りたくもなるというもの。
ダメモトで飛び込んだ浩輔の作品をちょっと見ただけで、デザイン部に浩輔を連れて行き、いきなり「ほな、君のデスクはそこや」、で、そのまま今日に至っている。
この佐々木、立ち上がれば、顔が小さいモデル体型で、ゆうに百八十を越える長身だし、脱げば細マッチョというには申し訳ないくらいきれいに筋肉がついて脚も長いとくれば、バツイチながら社内のみならず女の子の人気度は高い。
噂では京都の公家の血を引くとかで、時折口にするはんなり言葉のぬうぼうとした上司には浩輔もすっかり懐いて、一緒に仕事をするのが楽しかった。
特別ドラマチックなこともないが、しごく平穏に過ぎていく日常だ。
金曜も五時を過ぎたというのに、会社の一角はそわそわがやがや賑わいでいた。
「まだ、やってんのかいな? コースケ、おいてくでぇ」
せっかちな大阪弁が部屋中に響く。
既にセーターの上にスノボジャケットを着込んだ営業の大沢宏は、同じ関西弁なのに品がないと女の子たちに言われ、佐々木に勝手にライバル意識を持っている。
この週末は社員親睦のためのスキーツアーと称して希望者を募り、会社から直接スキー場に向かうことになっていた。
当初、参加予定だった何人かは仕事が入り、メンバーは佐々木に浩輔、営業の大沢と土橋、女の子はデザイナーの芝田美紀を始め、営業部の直子、経理の野村保奈美の三人となった。
『スカシ野郎』稲葉は、急ぎの仕事で今回パスしなくてはならないのを、本人は悔しがっていた。
一度辞めたこの会社に出戻ってきた中年シングルの営業課長土橋憲司や、バツイチとはいえ佐々木も含めて、全員がシングル。
会社のワゴン車にスキーやスノーボードなど積み込み、佐々木が自分の車を出して、二台に分乗することになった。
インストラクターの資格がある佐々木に、教えて! などと言って、女の子たちは率先して佐々木のボルボに乗り込み、冴え渡った夜空の下、寒と冷え切った空気をものともせず、一行は意気揚揚と出発した。
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