就職祝いに親が買ってくれた車は日本を離れる時に売ってしまったし、河崎が車を出してくれることになっていたのだ。
会社の近くに友達と住むのだと、荷物を運ぼうと申し出てくれた浩一には断割りを入れたが、浩輔の性格上、事実が知れるのも時間の問題かも知れない。
衣類や書籍、画材の類は、段ボール数個に納まった。
あとは美術学校時代の作品やパソコンとテレビだけ。
それもベンツのステーションワゴンに積み込み、浩輔がサイドシートに乗り込んでも十分OKだ。
さすがに台風の前とあって、ちょっと動いただけで蒸し暑さに汗が流れる。
『フィンリー・トレーディング・CO.LTD.』
河崎の部屋はこの会社名義になっていた。
浩輔が使っていたゲストルームに、荷物を運びいれ、片付けも早々に終った。
「ありがとうございました。今、お茶入れます」
早く帰ってくれないかな、と思いながら、浩輔は一応丁寧に頭を下げる。
「ああ、俺、ビールね」と、キッチンに行こうとする浩輔を藤堂が呼び止めた。
「え……でも、車ですよね?」
「平気平気。ビールの一本や二本。一緒に飲もうよ、コースケちゃん」
「ダメです。飲むんなら車置いてってください」
リビングの窓側のソファが、チビスケのお気に入りの定位置だ。
丸くなってふくふくと眠っている。
「いいながめだよな、ここ」
街の灯りが大きな窓全面に広がっている。
「二人っきりで酒も入って何か変な気分にならない?」
からかわれているのはわかっているが、妙な流し目に浩輔は思わず身を引いた。
「全然なりません」
「つれないんだから、コースケちゃん」
その時エントランスのインターフォンが鳴った。
「あ、コースケちゃん? あたし、開けてちょうだい」
一瞬、浩輔は硬直する。
開けないわけにもいかず、ロックを解除した。
「誰? 達也?」
藤堂が聞いた。
「さやかさんです」
「さやかだぁ? 何しに来たんだ? あいつ」
それはこっちが聞きたい。
「お引っ越し祝いよ。コースケちゃん。ピザもあるの」
豪華な深紅の薔薇の花束と共にさやかは現れた。
さらに、ようっ、と突っ立ったままの浩輔の肩を叩いたのは、何とキョウヤだ。
手にはボトル二本とピザ。
「あら義行、まだいたの?」
「どういうつもりだ?」
「今日、コースケちゃんが引っ越すって、達也が言ってたから」
モデルばりのボディに長い髪、黄色いミニのワンピース。
さやかは相変わらず派手で美しい。
「俺は佐々木の代理。これ持ってけって、ドンペリ。佐々木の差し入れ。グラスどこ?」
キョウヤはつかつかと入り込み、リビングを見回す。
うさん臭そうに突然の来訪者を眺めるチビスケの隣に座り、妙な取り合わせの三人を前に、浩輔はグラスを持たされる。
「食べないの? ピザ。毒なんか入ってないわよ」
その言い方には慣れているものの、イチイチかんに触わる。
ああー、もう河崎さん、早く帰って来て欲しい。
これであの三浦までが一緒だったら、と思うと、考えただけで疲れてしまう。
「かわいいわね! チビスケも食べる?」
急にさやかがチビスケを抱き上げるが、チビスケは嫌がってスルリと床に降り、トコトコと玄関に向った。
「あら、よく躾けてるわね、コースケちゃん」
「人を見る目があるんだよな、チビスケは」
藤堂が口を挟む。
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