しばらくして、玄関が開く音がした。
「何やってるんだ! てめーら!!」
ドアが開くと同時に、第一声が轟いた。
「あ、おかえりなさい」
ジロリと見回すその表情は、できる限り近づかない方がいい時のそれだと浩輔は瞬時に判断する。
「コースケちゃんのお引っ越し祝いじゃない。達也も早く座りなさいよ」
「おう、さきに始めてるぜ」
「ピザ足りねーな、デリバリー頼む?」
さやか、藤堂、キョーヤが口々に言うさまを見て、眉間に皺を寄せたまま、無理矢理グラスを持たされた河崎は、浩輔を振り返る。
「何で、あんな女が出るんだ?」
「…あんな女?」
浩輔は何のことかわからなくてきょとんと河崎を見つめた。
「お前の携帯にだ」
「ああ、あれ、俺のとこに直ちゃんがきてて、デスクの上の携帯に勝手に出ちゃってぇ…」
しばし間があった。
「……直ちゃん……」
「あ、スキー場で一緒に、ほら、とびきり明るい子、いたでしょ?」
そこでやっと河崎の横顔が妙に剣呑になっているのに気づく。
「他のやつを二度と携帯なんかに出すな!!」
「はい…」
そういえば直子が、『このオヤジ』なんて言っていたのが聞こえたのかも……。
「達也ったら! そんなことで妬いてるの?」
さやかがケラケラと笑い出した。
河崎は苦虫を噛み潰したような形相で四人をもうひと睨みすると、無言のまま寝室に消えた。
予定より早く河崎が帰ってきてほっとしたのもつかの間、浩輔はその低気圧をビシバシと感じている。
やがてシャワーを浴びた河崎が、バスローブで戻ってきた。
「まだ帰ってねーのか? てめーら」
「その言いぐさはないだろ? 俺はお前の代わりにコースケちゃんの荷物運んだのによ」
「そりゃ、ありがとうよ。だが、外はもう嵐がそこまできてるしな、とっとと帰った方が身のためだぜ」
河崎は冷蔵庫から缶ビールを取り出してプルトップを引く。
「あら、大変、ここに泊めてもらおうかしら」
「俺はじゃあ、コースケちゃんの部屋に泊めてもらおっと」
「ようし、今夜はぱーっといくか!」
てんでに勝手なことを口にする。
「きさまら!! さっさと出てけってのがわからねーのか!!」
嵐の前の雷は、酔っ払いをほんの少し正気に戻したらしい。
チビスケもソファから飛び降り、これ以上河崎の怒りをかいたくない三人は、わらわらと立ち上がる。
「横暴極まりないぞ!」
「そのうちコースケちゃんを篭に入れてしまっちゃうんじゃない?」
「ケチなんだからよ、カワサキぃ」
そそくさと出て行った三人に置き去りにされた浩輔。
雷を一人で受けろって?
「浩輔!」
「はいっ!」
浩輔は恐る恐る河崎に顔を向ける。
「俺の留守に、奴等をここに入れるな!」
「……はい」
入れるな、といってもあの藤堂やさやかが納得するとは思えないけれど。
「あの、せっかくだし、河崎さん、飲みますか?」
テーブルの上には開けたばかりのドンペリが殆ど一本残っている。
「キョウヤが持ってきてくれたんです。佐々木さんからの差し入れだっ………」
はっとして浩輔は口を閉ざす。
河崎の目がギロリと光った気がする。
「あっと、俺、風呂まだだし、入ろっと。どうぞ飲んでくださいね……」
背中に当る視線が痛くて、浩輔は自分の部屋に駆け込んだ。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
