その良太は食べて飲んで疲れが出たのか、うつらうつらし始めた。
そのうちテーブルに突っ伏して寝てしまったので、千雪は周りの食器を遠ざけ、傍にあったコートをかけてやる。
「あ~あ、雪道運転してきて、おかしな道連れはいるわでよほど疲れたんやな~。普段は誰かさんにこき使われて」
「正月はちゃんと休みを取らせた。両親のとこに行ったはずだ」
「まあ、それはそれで気ぃ使うもんやからな」
仲居が食事を片づけに来た頃、コートのポケットで鳴り始めた携帯を千雪は緩慢な動作で取り出した。
千雪がリビングの椅子に腰を降ろす間に携帯は一度切れるがまた鳴り出し、出るまで鳴らし続けるぞとでも言わんばかりだ。
「うるさいわ、京助」
まず一言文句を言い、ごちゃごちゃ言っているのだろう京助に、千雪は「わかった。十分後やな」と返事をして携帯を切る。
「ほな、工藤さん、ごゆっくり」
千雪は立ち上がって言った。
「お前らはどこへ行くんだ?」
リビングの方で煙草を一本吸った工藤は千雪に聞いた。
「紫紀さんが持ってはるリゾートマンション、この辺りにあるらしいんですわ、そっち行って、明日、明後日はスキー三昧。編集部にはこのドラマの打ち合わせが隠れ蓑ですよって、そこんとこもよろしゅうに」
千雪はコートを手にドアに向かう。
「うまく立ち回るようになったじゃないか」
「世の中の荒波に揉まれたから、ちがいますか?」
「何が荒波だ。京助に言っておけ、事故るんなら千雪を乗せないときにしろってな」
ドアを開きかけて、千雪は振り返る。
「どうせなら、工藤さんも二、三日ゆっくりしやはったら?」
「できるか」
「そうそう、例のモデルさんとのこと、言い分け考えといた方がええですよ? 良太、かなり、怒ってたし」
「うるさい、とっとと行け」
ハハ、と笑いながら千雪は部屋を出て行った。
芽久とのことで、しばらくはテレビのワイドショーやら週刊誌やらに追われ、正直、工藤は迷惑を被っていた。
しかもそれが良太の目の前でのことであったからごまかしようもなく、案の定、良太はつむじを曲げるわ、しばらく鳴りを潜めていたつもりだったのに、クライアントにまで、やっぱりあの工藤高広だといわんばかりに色眼鏡的な目で見られるわ、とにかく芽久とどうこう言われることに辟易していた。
おそらく芽久の事務所は、いい宣伝になったとでも思っているのだろうが。
「俺をダシにしやがって」
いくらヨーロッパで活躍しているとはいえ、俳優として日本でやっていくのならちょっとでも顔を売っておかなければ、特に優れた演技力など持ち合わせてもいない芽久では先が見えている。
純情可憐な少女というわけではないし、それが芽久であればむしろ多少センセーショナルな方が注目度も上がり、勝手に次のステップへの階段が用意されているようなものだ。
俳優としての力量がどのくらいあるかはこれからの仕事次第だが、少なくともテレビ局の役員を丸め込むくらいは朝飯前というわけか。
とにかくトバッチリを被るのはごめんだ。
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