バレンタインデー、良太、走る1

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 二月も中盤に差し掛かると、今年も商業戦線に乗っかったバレンタインデーを盛り上げるべく、デパートやショップがポップを掲げて人々を煽り始める。
 ただ物価高や政治不信などが続いているせいで、昔流行った義理チョコだの職場へのチョコだのは廃れ、家族やパートナー、或いは自分へのご褒美などが主流だという。
 ここ東京は乃木坂にある青山プロダクション。
 社長は、在京キー局時代鬼の工藤と異名を取った敏腕プロデューサー工藤高広、主な事業内容はテレビ番組、映画等の企画制作及びタレントの育成、プロモーションである。
 規模は小さいがあらゆる面で不況のご時世に右肩上がりの業績を挙げている。
 諸事情により万年人手不足のこの会社にあって、社長秘書兼プロデューサーという肩書に加え、何でも屋を自認する広瀬良太は、午後二時を過ぎたのに気付くと、先ほどから作成していた書類を慌ててプリントアウトする。
「日本て、ほんと、ブームなんだよね、何でも」
 一見してそこいらへんにいる学生にしか見えないだろう森村繁久は、実は日系三世で国籍はアメリカだ。
 日本に来てまだ一年とちょっと、日本て不思議、という場面が多々あるらしい。
「ハロウィンも、きっと数年後には流行らなくなってたりして」
「まあ、バレンタインもハロウィンも日本では商業ベースのただのお祭り騒ぎだからね」
 森村の意見に頷きながら、良太はプリントアウトされた書類を揃える。
「そうなんだ。アメリカだと、どっちも根付いている習慣だからな、多少の浮き沈みはあっても」
 午後のおやつタイムに、今日は森村がコーヒーとドーナツを鈴木さんや良太に配っている。
 鈴木さんも良太も今日は何かと忙しいのだ。
「何にせよ、巷はどうでも、うちはそれなりにどっとくるから、モリー、頼むわ、バレンタインデー」
「Copy That!」
 再三時刻を確かめながら、良太はドーナツを頬張り、コーヒーを飲む。
 人気俳優を抱えているここ青山プロダクションには、毎年バレンタインデーには沢山のプレゼントが届く。
 志村嘉人や小笠原祐二、番組宛てに届いたプレゼントもオフィスの方に配送される二人の俳優陣のみならず、社長の工藤や看板女優中川アスカのマネージャー秋山、それになぜか最近は良太にまで、あちこちからプレゼントが送られてくるのだ。
 去年はまだ良太もプレゼントの山の仕分け作業を手伝う余裕が多少あったのだが、今年は全くといっていいほど余裕がない。
 秋からクランクインしたドラマ『検事六条渉』のオンエアが年明けから始まり、来春公開予定の『検事六条渉対弁護士御園生』の撮影がクランクイン予定で、やはり来年春から放映予定のドラマ『コリドー通りでよろしく』の第二弾のキャスティングが揉めている。
 スポーツ情報番組『パワスポ』にドキュメンタリー『和をつなぐ』は当然良太が動かないわけにはいかない。
 


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