「悪いけど、モリー、バレンタインのそろそろ届き始めてるから、撮影行かない時、鈴木さん一人で手に負えないだろうし、手伝ってやって」
「Copy That!」
パソコンの画面から顔を上げて森村が言った。
コートとリュックを掴むと足早にドアに向かおうとした良太は、振り返った。
「それと、もし社長宛の荷物とか届いたら、絶対そのままにしないで全部開けて中見て、食べ物とかならみんなで分けて。食べられないものだけ社長用に仕分けしといて」
「わかりました」
一見どこにでもいる学生くらいにしか見えないが中身がアメリカ人の森村は、わかりました、の返事の方がどことなくぎこちない。
昨年、アルバイトから社員に昇格した、良太としては正式の後輩になる。
小笠原祐二のマネージャーをしている真中も後輩にあたるが、軽井沢の平造に鍛え上げられて入社させられた訳アリ組になるからだ。
それで差別をするとかではなく、真中は小笠原と常に一緒に行動するわけで、良太の仕事を押し付けられる相手、という意味では森村は有難い後輩なのだ。
しかも先を読んで動いてくれるから良太は大いに助かっている。
が、何だかその分、また仕事量が増えた気がする。
駐車場にかけ降りて車に乗り込んだ良太はそんなことを考え込む余裕もなく、『コリドー通りで』の打ち合わせに向かうべくハンドルを切った。
「うわ、何か今年、やたら増えてませんか?」
夕方四時頃、ロケから戻ってきた良太は、大テーブルの上に積み上げられたバレンタインのプレゼントの山を見て、思わずのけぞった。
二月十四日の東京は、小雪が舞い踊る朝から非常に寒い日となった。
昨夜、沖縄出張中の工藤の命により、スポンサーの接待を任された良太は、睡眠時間三時間で何を考える余裕もなく今朝慌てて駐車場に走り、朝五時から始まった『検事六条渉』の極寒の武蔵野ロケに臨み、撮影陣と俳優陣のチームワークで何とか乗り切ったところでオフィスに戻ってきたところだ。
「お疲れ様。やっぱり映画やドラマがよかった証なんでしょう」
プレゼントの山を仕分けし、リストに書き込みながら、鈴木さんが言った。
「匠へのプレゼントがすごい」
こちらも手を動かしながら、森村が呆れて首を横に振る。
檜山匠は昨年公開された『大いなる旅人 京都』に出演した能楽師だが、プロモーションが始まった頃から注目され、急激に人気を博したが、もともと個人でやっていたため、窓口はこの会社になっているのだ。
忙しそうな二人を横目に、良太はキッチンでコーヒーを入れてくる。
「コーヒー、飲みます?」
良太は二人に尋ねたが、二人とも今はいいというので、一人デスクでコーヒーを口にして、ようやく人心地つく。
ここ数日走り回っていた良太だが、バレンタインデーだからというわけではないが、この後、予定は入っていない。
「さーて、俺も手伝います」
しばし休憩した良太は立ち上がった。
アスカがイメージキャラクターを務める化粧品会社美聖堂のCM撮影のため沖縄にいる工藤は今日帰ってくるかどうかわからないと言っていた。
「わ、俺宛てもある! 大森さんからだ!」
森村は声を上げて喜んでいる。
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