クリスマスの空9

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 朝から東京では急激に気温が下がり、夕暮れになると傍らを吹き抜ける木枯らしの寒さは半端ではなかった。
 ホワイトクリスマスというほどではないが、ここ数日時折雪もチラついている。
「何が楽しくて、イブに教授のつき合いなんかしなくちゃなんないんだか」
 用もないのでそそくさと佑人が家に帰ってみると、本当は研究室に籠って、やりかけの論文をまとめてしまいたかったのに、と郁磨はスーツ姿にネクタイを結びながら言った。
 例によって父母それぞれ出かけているから、また佑人一人のクリスマスイブになった。
「今日はイブだろ? いつもの仲間でパーティとかやんないのか?」
 そんな佑人を心配して、郁磨が尋ねた。
「だから俺ら一応受験生だし」
「あ、そっか。まあ、でも、イブくらいハメ外した方が、気分転換になっていいと思うけどね」
 今日も午前様だな、と言いながら郁磨が出かけると、急に家の中は静まり返る。
 大きな樅ノ木を居間に据えたクリスマスツリーがきれいに輝いている。
 しばらくラッキーと二人、ソファに座ってぼんやりとイリュミネーションを眺めていた佑人は、早めに食事を済ませてしまおうとキッチンに向かう。
「ここんとこ、お前と二人ってばっかだよな」
 若宮と力のことは気になっていたが、力は今日も必要な授業以外は寝ていたし、休み時間に廊下で女子と笑いあっている若宮を見かけたが、昨日、あれからどうなったのかわからなかった。
 昼休みも学食ではいつものメンツが一緒になったものの、佑人は力と言葉を交わすこともなかった。
「なーんか、やっぱ終わり、かな………」
 郁磨が佑人のために取ってくれた出前の鮨をつまみながら、佑人はポツリと呟いた。
 口にすると俄かにリアルな寂寥感が胸をつく。
 今日はひょっとして若宮と会っているんだろうか。
 気がつくと、また勝手に涙が零れている。
「ブルー・クリスマス、かな、ラッキー」
 慌てて涙を拭い、ラッキーを抱き寄せたその時、ポケットの携帯が鳴りだした。取り出して画面に力の名前を確認して佑人は一瞬躊躇する。
「はい」
「俺、今、出られるか?」
「え……」
「門の前にいる」
 それだけ言うとブチッと切れた。
「何なんだよ、急に……勝手に、こっちの返事も聞かないうちに…」
 文句を並べながらも佑人の気は焦り、コートを羽織って出かけようとしてまた戻り、部屋に駆け上がると机の上に置いていたものをポケットに突っこんで階段を降りる。
「ちょっと、出てくるね」
 ラッキーに言うと、足早に門へと向かう。
 門まで辿り着くと息を整えてから門を開けた。
「よう」
 コートの下は学生服だ。力は塾帰りの足で立ち寄ったようだ。
「冬期講習?」
「ああ、その帰り………あのな!」
 急に力は声を上げた。
「え?」
「俺ずっと、女とか会ったりしてねぇし、若宮とかも全然、関係ねぇから!」
 これで終わりにしようと言い渡されることも覚悟していた佑人は、力の率直な言葉にふっと笑う。
「何がおかしいんだよ!」

 


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