「いいものがあるな」
工藤の声に良太は振り返った。
「飲みます?」
「おう」
風呂上がりの工藤はバスローブのままソファに腰を下ろした。
グラスを二つ工藤の前のテーブルに置いて、良太はラム酒のボトルを開けた。
鼻孔を擽る香りとグラスに注がれるコクコクという音が小気味よい。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
良太が工藤の横に座ると、良太に合わせてグラスをちょっと掲げ、工藤は酒を味わった。
テレビのBS放送ではちょうど以前不祥事で今はもうない旧大手アイドル芸能プロダクションK社所属俳優斎藤明人が主演を務めるサスペンス系のスペシャルドラマの再放送をやっていた。
「これ、まだK社の頃の斎藤明人だ。彼、最近えらく渋い俳優になりましたよね」
画面に目をやって良太が言うと、「実力のあるやつはどこにいても成長する。踊らされてるだけのやつは消える。自然淘汰だ」と工藤は一刀両断する。
「はあ、でもほら、本谷くん、彼、ほんと化けましたよね。最初、人気だけで事務所がドラマの主演させてるとかって言われてたけど」
良太が口にした本谷の名前に、工藤は一瞬反応したが、「たまにはそういうやつもいるさ」などとごまかした。
前に本谷和正という人気若手俳優のドラマに関わった時、工藤は本谷に告られていたのだ。
良太がたまたまその告白を聞いてしまったことを知らない工藤は、良太に突っ込まれるのを気にして今はあまり話題にしたくなかった。
「そういえば、坂口さん、『コリドー通りで』の第二弾を狙ってるみたいですよ」
「ああ、視聴率も配信もそこそこ数字取ってたからって調子に乗ってるんだろ、あの人は。前々から話はあったが、本決まりになったらしい」
大物脚本家の坂口は工藤と組んで、これまでいくつかの人気ドラマを世に送り出してきている。
顔を合わせれば互いに揶揄し合うような腐れ縁だが、まあ仕事はしやすいのだろう。
「そう、それで次のシリーズ再来年春で、本谷くん使いたいから打診しといてくれとかって」
シリーズ化したいなどという御託を並べていたのは知っていたが、本谷を使うとか工藤は初耳だった。
「あの人はやるとなったら強引だからな。スケジュールだけは押さえておけ」
「はあ」
年明けにはもう既に撮影が進んでいるドラマ『検事六条渉』もいよいよ放映予定だ。
「六条渉のひとみさんも、クローズアップされてていい感じですよね」
雑誌やネットでは山内ひとみとドラマのプロデューサーである工藤との古い話まで取り上げて、ヤケボックイに火か、などと勝手に煽っている。
これも工藤としては良太が変に気を回さないかと気になっているところだ。
ひとみは良太のことを可愛がっているし、お互いよくわかっている間柄だから良太も変な邪推はしないだろうとは思うのだが、良太との関係にあまり波風立てたくないというのが工藤の本音だ。
まったりと二人で過ごすことが、工藤にとっても安らげるひと時だった。
工藤だけでなく良太もまた仕事に明け暮れた一年が終わろうとしている。
こんな風に一年一年を重ねて行ければいいと、工藤は漠然と思っているのだ。
「じゃあ、おやすみなさい」
グラスに二杯ほど飲み、疲れと酔いに眠くなった良太はベッドの毛布を被ろうとした。
「こら待て、せっかく紫紀さんがここまでお膳立てしてくれてるってのに、もう寝るってか?」
「何、ゆってんです? 明日、仕事なんですよ?」
ったく、このおっさんは! と心の中で悪態をつきつつ、毛布を逆にはがされた良太は眉を顰めて抗議する。
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