「うーん、ほな、部屋でクリスマスディナーとか、どや? 良太が作らんでもケータリングサービスつこたらええんちゃう?」
千雪の提案で、良太も、お互いに時間に余裕があったら、部屋でディナーを実行してみようかなんて思ったりしたのだが、到底そんな準備をするような余裕はなく、今年も何事もなくクリスマスイブも過ぎていく予定だったのだ。
それが突発的なロケハンで、一日前ではあるが、こんな思いがけないクリスマスになるなんて。
チケットだけでなく、クリスマスツリーやディナーのメニューを見ても、おそらく工藤が和風好みなのを考えて紫紀が咲子に用意させたのだろうくらい、良太にも想像がつく。
まさか、工藤と良太の関係を知ってて、なんてことは、ないよな。
考えすぎだとは思うものの、京助と千雪という二人が近くにいるし、紫紀は些末なことは度外視する人だとは、良太も以前から感じていた。
ま、紫紀さんを理解しようなんてまず無理だからやめとこ。
「あんまり甘くないし、美味いんじゃないか」
工藤はそれでもひと口食べると、ケーキの皿を良太の方へよこした。
きれいに生クリームは避けてスポンジのところだけひとかけだ。
「なかなかいい香りだ」
何も考えずにいれたのだが、コーヒーのかぐわしさが鼻孔を刺激する。
「ほんとだ、いい香り。うちのオフィスにも欲しいですね。咲子さんに明日聞いてみよう」
良太も頷いた。
工藤とコーヒーやケーキの話題とか、こんなまったりした時間は滅多にないよな。
そんなことを考えながら良太はケーキをほぼ二つぺろりと平らげる。
工藤は工藤で、名古屋から札幌に飛んで、タクシーでニセコという強行軍で、疲労を感じざるを得ず、コーヒーを飲みながら、健啖ぶりを発揮している良太を眺めているのが一番平和だ、などと思う。
「また、よく食べるとか思ってるんだろ」
工藤と目が合うと良太が言った。
「今に始まったことじゃないだろう。お前を見てると平和だと思ったのさ」
「何だよ、それ」
ちょっと斜に睨みつつ、「そうだ、そっちの風呂、使ってくれって、咲子さんが言ってた」と言うと、「俺、シンク片付けるから、風呂、入れば?」と良太は立ち上がった。
「置いとけって言われただろう」
「汚れたものをそのままにするのも何かいやじゃん」
工藤はフンとせせら笑い、リビングを出て行った。
良太は食べ終えた皿やカップをシンクに持っていったが、片付けると言ってもざっとゆすいで食洗器に入れるだけだ。
「軽井沢も温泉が引いてあってよかったけど、ここもいたれりつくせりの保養所だよな」
この手のコンドミニアムがほかにもいくつかあるらしい。
やはり東洋グループの社員は恵まれている。
明後日は土曜日だし、それこそ明日のイブは満室なんじゃないか?
そうだよな、別に俺たちだけのためにツリー飾ったりしてくれたわけじゃないんだよな、きっと。
でも今日はまだ静かだし、一日早くてよかったかも。
寝室に上がると、工藤は下の風呂に行ったらしく、来ていたスーツがベッドに放り出してあった。
「皺になるじゃん」
良太はそれをハンガーにかけて、テレビをつけた。
壁際のボードを見ると、ブランデーやウイスキーなどのボトルの横にロンサカパも並んでいる。
やはり工藤の好みに合わせてあるようだ。
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