好きだから101

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「ただし、佐々木さんだけはあいつなんかに譲るつもりはないからな」
 小声でブツブツ沢村が呟いた言葉は周りには聞こえなかった。
「大輔って、八木沼のことかよ?! お前、あんな若造に追い越されたら悔しくねえのかよ、男だろ!」
 話の方向がズレているが、肇も負けじと声を荒げて沢村にくってかかる。
「いい加減にしてよ!」
 ダン! とテーブルを叩いて男ども三人の激論に水をさしたのはかおりだ。
「振られたくらいで? 男だろ? そんな昭和のオヤジの根性論なんか未だに振りかざしてるんじゃないわよ! アラサーっつったってまだ二十代のくせに! 見て見なさいよ、政治はグダグダだわ、定年離婚されるわ、昭和のオヤジの成れの果て! 女とか恋とか大事なもんをおろそかにしてるから、そういう末路を辿るのよ!」
 その剣幕に三人は押し黙った。
「沢村くんも一回や二回振られたからって、落ち込んで自主トレもできないとか、情けないことばっか言ってないで、諦められないんなら、もう一度当たって砕けるくらいしたらどうなのよ!」
 かおりにビシッと指導を受けて沢村はポケッとかおりを見上げた。
「カックィーー、かおりちゃん! 沢村、肝に銘じます!」
 我に返った沢村は、へらっと笑いジョッキを掲げる。
「ああ、そうだね、かおりちゃんの言うとおりだわ。俺も反省。逃げ込むためにやるんじゃだめだよな」
 良太はふうっと息をつく。
「でもかおりちゃんさ、やっぱせっかくだからハワイで式あげても、横浜でも披露宴やればいいじゃん。着物もきっと似合うよ。カツラとかやらないにしてもさ。それで肇んちとかおりちゃんちとどっちも納得してもらえばいいんじゃね? 主役は二人なんだから二人で決めればいい」
「しょうがないわね」
「いいのか? かおり」
 良太の言葉で納得したらしい香りを見て、肇の目にようやく安堵の表情が浮かぶ。
 するとかおりがフフッと笑った。
「え、何?」
「なんかさ、良太くん、鍛えられてるなって思って。昔はほんと何でも一直線って感じだったのに」
「え、いやあ」
「なーに、えらそうなこと言ってたって、根本はこいつは変わってやしないさ」
 照れる良太の言葉を遮って沢村が断言した。
「ふん、きさまこそだ! 自分で認めてるんだから世話ないよな、いっつも上から目線で」
「やっぱり今日集まってよかった! じゃ、改めて乾杯! 『桜野球少年会』に!」
 またああだこうだ始めた沢村と良太を無視してかおりが明るくジョッキを掲げた。
 
   
 
 
「おい、沢村、カード! 沢村!」
 良太は飲み過ぎた沢村に肩を貸して、店はオフィスから近かったのに、仕方なく沢村の定宿であるホテルの部屋までタクシーで送ってきた。
「おう、わーかってますよ、良太ちゃん!」
 何せ、あれから日本酒、ウイスキー、焼酎とそれこそ店にあるだけの銘柄を飲んだのではないかと思うくらい、沢村はかおりと一緒になって飲み比べを始めたのだった。
 細い身体をして沢村と対抗するくらいかおりは酒が強い。
 ざる、というのがはまり過ぎる。
 沢村とかおりが、これはうまい、これはちょっとね、などと言いながら、カパカパやっているのを横目に、ちびちびと日本酒をやりながら良太と肇は世知辛い世の中をぼそぼそと憂えていた。

 


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