好きだから102

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「あったぞーーー」
 ブリーフケースを探っていた沢村は声をあげた。
「ばっか、夜中にデカい声出すなよ!」
 小声で窘めながら、沢村からカードを奪ってドアを開けた。
 ベッドルームまでもつれるようにして連れてきた沢村を、良太は力一杯ベッドに押しやると、肩から落ちそうになっているリュックを掛け直した。
 かおりはかなりべろべろに酔っていたものの、肇はガッシリタイプだから女性の一人くらい、この沢村をここまで連れてくることに比べればどうってことはない。
「ったく、冗談じゃねーぞ! 重量級の連中の世話なんかぜってーもーやらねーからな」
「酒~!」
 踵を返そうとした良太の背中に、沢村は呻いた。
「いい加減にしろよ! この酔っ払い!」
 怒鳴りつけたものの仕方なく冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してキャップを取ってベッドに転がっている沢村に差し出した。
「ほら、飲め!」
 沢村は手だけ伸ばしてボトルを掴むと、むくりと身体を起こしてごくごくと飲んだ。
「なんだよ、酒じゃねーじゃん!」
 あらかた飲んでから、沢村は文句を言う。
「酒なんかもう十分飲んだだろーが」
 沢村は良太の言葉にフンと笑い、ミネラルウォーターを飲み干した。
「くっそ、せっかくの酔いが覚めちまったじゃねーか」
 忌々し気に沢村はボトルをゴミ箱に放った。
「良太、ここ」
 気が付いたようにコートを脱ぐと、沢村はベッドに腰を下ろしたまま、隣をポンポンと叩く。
「あのな、俺は明日も朝から仕事なの!」
 冷蔵庫からもう一本ミネラルウォーターを取ってきて、良太は沢村の隣に座ると、キャップを開けて飲んだ。
「俺はこれまで挫折とかの経験がほとんどない」
「っ! 自慢かよ!!!」
「野球では勝とうが負けようがマスコミにクソミソに叩かれようがへでもない」
 ボソリと沢村は言った。
「へー、そうすか、どうせおれは勝ち負けに一喜一憂してたさ」
「女なんか勝手に寄ってきたけど、考えてみれば俺自身、まともに付き合ってたことなんか、なかった。学生ン時もプロになってからも」
「俺だってロクに付き合ったことなんかないし。だーから、今更俺にそんな自慢話して何が面白い!」
 良太はイラついて、沢村に突っかかる。
「家族も学校も野球部員もどいつもこいつも俺は嫌いだった。神戸のジジイとお前以外みんな」
 良太は沢村の顔を見た。
「誰かが好きだとか、そういうのってのはお前以外佐々木さんに会うまで金輪際なかった」
「あー、そこ、俺のことはすっ飛ばしてくれていいし」
「人を本気で好きってのは、なんか、その人に、佐々木さんに心ごと俺の何もかもを持っていかれるっつうか、もう身動き取れないっつうか」
 沢村はそう言うと一つ大きく息をついた。
 あの人も俺のことを好きだった、絶対に。
 けど……、やっぱあの男と………。
「野球やってる俺が重いんだと。だったらいくらでも野球なんか捨ててやるのに」
「…………お前、ちょっとそれは、違うんじゃないか?」
「何がだよ?!」
 良太は一呼吸おいてから口を開いた。
「アスカさんが………うっかりお前とオヤジさんの件、口にした時、佐々木さんが聞いてしまったんじゃないかって、自分のせいでお前と佐々木さんがどうかなったらどうしようって悩んでて」
 沢村は良太を見た。

 


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