好きだから103

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「……いや………それは………いずれは俺が話さなけりゃならなかったことで……。アスカさんとか巻き込んで悪かったよ。まあ、俺が姑息にも佐々木さんに隠そうとかしたことが余計に佐々木さんにはうざったかったのさ」
 自嘲気味な言葉ばかりが沢村の口をついて出る。
「佐々木さんのお母さんが足怪我したって……俺には何にもできなかった。それに……幼馴染の医者とかって男が……いた」
「そいつと佐々木さん付き合うって?」
 直子が言っていた男だと、良太は察しがついた。
 沢村と顔を合わせていたとは。
「そうじゃねえの? ほんと言って……………ここまで頭も心もボロボロとか、わけわからねーし。ハハ……」
「お前それで、佐々木さんには連絡取ってないのか?」
「できるわけないだろ、お前、重くてウザいやつにつきまとわれたいと思うか? 佐々木さんを苦しめるってわかってて、んなことできねぇよ!」
 沢村は強い口調で言い放った。
「そんで諦めんの? 諦められんの?」
「諦められりゃ、こんなグダグダしてるかよ!」
 沢村はまた声を上げた。
 ふう、と今度は良太が息をつく。
 重い、か。
 強い言葉。
 言葉の呪縛。
 そういうのって、段々デカくなって、杭みたいになったやつを自分の心に突き刺しちまうんだ。
「俺はさ、幸せな家庭に育ったんだなって、秋山さんに言われた。確かにガキの頃は、貧乏だけど、オヤジとかあさんと亜弓がいて、野球やって、学校卒業したらオヤジの工場一緒にやってけばいいなんて、ほんと、甘いこと考えてたな。だから大学入っても卒業さえできればいいくらいで野球やって、就活もろくにしてなくて、そしたらある日突然、うちも工場も取られて親と亜弓は夜逃げみたく町を出て、俺のアパートにはヤバい債権者がやってきて、どっかで見たドラマみたいなことになって、大学の募集の張り紙見て今の会社で工藤に会った」
 途端、良太の脳裏に工藤の顔が浮かぶが、すぐに昼頃佳乃と二人出かけて行ったことまで思い出させて、良太は顔をしかめた。
 それに工藤と自分は恋人とか付き合っているとかいえるものではないのだ。
「オヤジさん、ダチの会社の連帯保証人になってただけだろ?」
「ああ、そん中に質の悪いとこの債権もあったりして」
「逃げたダチは?」
「さあ? 知らない。いや、だからさ、たかだか百年に満たない人生ン中でも何が起こるかわからないってこと。肇のやつは高校ん時から好きだったかおりちゃんとついに結婚にこぎつけたし。まるで無縁の世界の人間と出会うとかさ、俺と工藤なんか。お前だって家族のことはおいといて、プロに入って、順当に行けば、よくあるタレントか女子アナか、ひょっとしてほんとにアスカさんとかと知り合ったりして結婚してたかも知れないじゃん。でも、お前が出会ったのは佐々木さん。何か不思議だよな」
 沢村は拳を握りしめた。
 改めてそう言われると、佐々木への想いで目頭が熱くなる。
「佐々木さんにもう会えないんなら、地球なんかなくなっちまえばいいんだ!」
「…………ガキか」
 わかるけど。
 まあ、アラサーっつったって、中身なんか、こいつだってリトルリーグン時とかわりゃしない。


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