好きだから105

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    ACT 15
    
 
 朝から冷たい霧雨が東京の街を覆っていた。
 青山プロダクションのオフィスでは、鈴木女史が一人、週末に控えた関連業者を招待しての忘年会を前に、出欠の確認から当日のバイトやお土産の手配などの準備に追われていた。
 責任者は良太だが、自分の仕事であちこち飛び回っていて、細かい準備などは鈴木女史に任されていた。
「あら、おはようございます」
 鈴木さんは手を止めて、珍しく早い時間に顔をのぞかせたアスカににっこりとほほ笑んだ。
「おはようございます。今日、良太は?」
 しかも秋山連れでなく一人である。
「ああ、昨夜、ご学友と忘年会で飲み過ぎて、ちょっと遅れるそうよ。まあ、ここのところ良太ちゃん、動き詰めだったし、午後からにしたらって言ったんだけど。ほら、沢村さんもご一緒だったみたいよ」
「そう。じゃ、待ってるわ」
 アスカは窓際のソファに座って携帯を取り出した。
「どうぞ」
 目の前にコーヒーが置かれると、ありがとう、とアスカはぼそりと言った。
「アスカさんもお疲れのようね」
 いつにもなく元気のないアスカを見て鈴木さんは心配顔を向けた。
「うん、まあね」
 曖昧にごまかしたアスカにそれ以上尋ねることもなく、鈴木さんは自分のデスクに戻った。
 良太と沢村たちとの忘年会のことは直子経由で聞いていた。
 だから昨日、佐々木にうっかり知られてしまったかもしれないと謝罪を沢村に伝えてほしいと良太が行く前に頼むつもりだったのだが、良太は仕事で出かけていて、しかも、工藤は佳乃が来て一緒に出掛けて行ったという。
 え、まさか、良太と工藤さんまでぎくしゃくとか、ってのじゃないわよね。
 自分の言動が佐々木と沢村の間に亀裂を作ってしまったのではないかという危惧がアスカの中にずっとあった。
 直子とも電話で話したのだが、佐々木はここのところいつも通りに見えるように、無理をしているのがわかる程で、直子は「このままだと、絶対いつか佐々木ちゃん、壊れてしまう気がする」とアスカに訴えた。
 それを聞くと、さらにアスカの罪悪感が増して、いてもたってもいられずに、いつもなら午前中オフと言われれば寝てるだろう朝十時にも拘わらず、こうやってオフィスに出向いたのだ。
 頬杖をついてぼんやり窓の外に目を向けていたアスカは一台の車が会社の前に横付けされるのを見た。
「ベンツ? シルバー? 確か工藤さんのはもっと渋いグレーだったよね」
 知らず口にしていたアスカは、助手席から降りたのが良太だと気づいた。
 車の後ろから回って会社のエントランスに向かっていた良太を、運転席のパワーウインドウが開いて、声をかけた男がその腕を掴んだ。
「え、何? 沢村?」
 しばし二人は言葉をかわすと、良太は車を離れ、シルバーのベンツはスーッと走り去った。
「どういうこと?」
 アスカは思わず立ち上がった。
「どうかしましたか? アスカさん」
 鈴木さんが顔を上げた。
 するとオフィスのドアが開いて、「おはようございます」と良太が入ってきた。
「あれ、アスカさん、今日何かあったっけ?」


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