「え、ああ、午前中オフだったから、良太、沢村くんらと忘年会だったのよね? 夕べ」
小首を傾げながら聞いた良太にアスカは答えた。
「ああ、アスカさん気にしてたんだよね、沢村は別にいずれわかることだからって、アスカさん巻き込んで申し訳ないって言ってた。だからアスカさんのせいでどうとかはないから、大丈夫だよ」
良太はリュックをデスクに置くと、またそそくさとドアに向かう。
「すみません、鈴木さん、ちょっと着替えて、猫のようすみてくるんで」
「わかりました。まあ、朝から慌ただしいこと」
鈴木さんはほんわか笑っているが、アスカはちょっと固まっていた。
着替えて? 猫のようす? ってつまり朝帰り? 良太、工藤さんが佳乃さんと出てったから怒って、沢村くんと夕べ………まさか………。
その時、アスカの携帯が鳴った。
「直ちゃん!? それが、実は良太と沢村くんが……」
「え、良太ちゃんと沢村っちが? どうしたの? アスカさん」
「佐々木ちゃんは今、いる?」
「今さっきプラグイン出かけたけど」
「じゃ、ちょっとそっち行っていい?」
「いいけど……」
お出かけですかと尋ねる鈴木さんに返事をするのももどかしく、アスカはオフィスを出た。
静かなオフィスにクリスマスツリーのイリュミネーションだけが華やかさを醸し出していた。
二メートル以上ある天然木材を使用した本物のもみの木に近いこのツリーは、直子が選んだものだ。
どのみち佐々木はオフィス内のことは直子に任せきっているのだが、花を生ければきれいだと言ってくれるし、お茶を入れれば美味しいと言ってくれる、文句を言うことはほぼ皆無だ。
「きれいね~。うちのオフィスもツリーくらい飾ればいいのに。まあ、どこまでいっても人手不足で、余裕がなさすぎるんだよね~」
アスカは応接用のソファに座り、直子の入れてくれた紅茶を一口飲んだ。
「だね~忙しすぎるよね、みんな」
直子もデスクを離れてアスカの向かいに座り、一人頷いた。
「私もできる限りフォローしたいと思っているんだけど、できることに限界があるしね。佐々木ちゃん、最近ほんとにギリギリのとこで踏ん張ってるって感じで」
そこまで話すと直子は、はあ、と一つ大きな溜息をついた。
「直ちゃんはよくやってると思うよ。佐々木ちゃんのこと一番よくわかってるんじゃない?」
すると直子はふっと弱弱しい笑みを浮かべた。
「どうかな。そんなつもりで、いたんだけど……ね」
少し口ごもりながら直子は続けた。
「あくまでも私は仕事のアシスタントだから、ほんとは佐々木ちゃんのプライベートまで口を出すべきではないとは思ってるんだ。でも、前の会社の時からの付き合いだから、佐々木ちゃんの元嫁の友香さんよりはずっと、佐々木ちゃんのことわかってるつもりだったんだけど……。何か最近、佐々木ちゃん、自分の周りに結界を張って本音を見せないようにしてるっていうか」
「やっぱ、あたしのせいだ!」
直子の言葉を遮って、アスカは声をあげた。
「あたしがうかつなこと話したのを佐々木ちゃん聞いちゃったんだ。だから……」
「良太ちゃんからそれ、聞いたけど、二人の間がぎくしゃくしてるとしてもアスカさんのせいじゃないよ」
「でも……」
「そのことだけで佐々木ちゃんが怒って別れちゃうとか、そんなことしないよ」
直子は断言した。
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