「あの見るからに怖そうなお母さん。大和屋のお茶会の時会ったわ。佐々木さんによく似てきれいな人だったけど。何か、あれね、相手が男とかって、世の中の道を外すなんてもってのほかです、とか言いそうな雰囲気」
アスカは年初に行われた大和屋のイベントで、ショーに出たのだが、同時に設けられていた茶の湯の席に入る時、茶の湯の師範である佐々木の母に扇子がないことを注意され、予備の扇子を渡されたのだ。
それは相手が有名人であろうと関係ないようで、沢村が入ろうとしていた時も、背筋をしゃんと伸ばしなさい、などと注意されていたのを思い出した。
「う……ん、どうだろう。まあ、毎朝、仏壇に、周平にええご縁がありますように、って手を合わせるって、佐々木ちゃんがよく笑ってたけどね……母一人子一人………だしね~」
「うわあ、難関だねぇ………。二人の問題じゃん! ってのは正論なのに。あたしのモデルの友達、男の子だけど、中学の時から付き合う相手男で、親にバレて勘当されたままだって。二人の問題だけど、親に縁切られるのはつらいって言ってた。ましてやたった一人のお母さんって、やっぱ考えちゃうよね。しかも相手が沢村くんとかだと」
しばし二人ともあまりにも納得して項垂れて、言葉が出てこなかった。
「でもさ」
ようやくアスカが顔を上げた。
「あたしはあの二人、すてきなカップルだと思うから応援したいんだ」
「もちろん私もそう。あ、今度の金曜日って、青山プロの忘年会だよね?」
直子の目がさっきより輝いている。
「うん、私、撮影終わったら駆けつけることになってるよ。何せ、人手不足だから」
「良太ちゃんに沢村っちも呼んでもらおうよ」
「業者相手の忘年会だけど、この際、いいか。佐々木ちゃんも出席なんだよね?」
「うん。何か、プラグインでトラブったみたいで、今朝出かけてったけど、絶対、佐々木ちゃんもつれていくから」
直子の笑顔に励まされるように佐々木オフィスを出ると、外は静かに細やかな雨が降り続いていた。
アスカはタクシーを拾うと、携帯の電源を入れて案の定何回かコールしていたらしい秋山に連絡を入れた。
「今どこにいるんです? 鈴木さんが急に出て行ったって言うし、良太も心配していましたよ」
「ちょっと用があって。直接スタジオに行くから」
そう怒ってはいなかったが、秋山は時間厳守を言い渡した。
「なーんかさ、世の中って、思うようにいかないよね~」
アスカは雨粒が流れる窓に顔を向けながら呟いた。
夕方近くなっても雨はしとしとと降り続いていた。
外苑前の方から二四六を走ってきた濃いブルーのプジョーが表参道交差点を通り過ぎて、青山大学方面へやや行ったところにあるビルの駐車場に入った。
大通りに面して建つ、こ洒落た四階建てのビルの螺旋階段を上がった二階が広告代理店プラグインのオフィスだ。
三、四階はギャラリーになっており、一階には四台分の駐車場とエレベーターの入り口があり、階段横にも二台分のスペースがある。
車を降り立った藤堂義行が螺旋階段をあがり、オフィスのドアを開くと、中は滅多にないような重苦しい空気が漂っていた。
「お疲れ様です」
浩輔が藤堂を認めて画面から顔を上げた。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
