浩輔の横に座る佐々木の怜悧な横顔は、一種近寄りがたいほどの研ぎ澄まされたオーラを纏い、その眼は一心にモニターを見つめていた。
「佐々木さん」
藤堂はやや緊張気味に声をかけた。
「今、北海道と京都の映像に常盤繁友の映像重ねて、やってみとるけど」
「これで十分、まるで常盤さん北海道にいるみたいだけど」
「あくまでもラフやから」
淡々と説明する佐々木に苦笑して、「ちょっとあちらで。浩輔ちゃんも」と藤堂は促した。
壁に設置された大きなモニターの前のソファに佐々木と浩輔は腰を下ろしたが、昼前からずっと作業を続けてきた二人ともに体力消耗状態だった。
「佐々木さん、大丈夫ですか? 顔色悪いし、痩せたでしょう?」
浩輔は向かいで腕組みをしてソファにもたれかかっている佐々木を案じていた。
「師走やしな。こんなもんやろ」
佐々木は情けなさそうな笑みを浮かべた。
いつものことながら、直子や浩輔に心配させていることがもどかしい。
「お疲れでしょう。ちょっと甘いものでも召し上がって、一息つきましょう」
大きなトレーに熱い紅茶が入ったポットとカップ、それにマスカルポーネを使ったくちどけのよいチーズケーキを乗せて藤堂がキッチンから現れた。
「これ、美味しい!」
一口ケーキを口にした途端、浩輔が思わず言った。
「美味いだろ? 俺もこないだ人にもらって早速買おうと思ったら、何か評判になってるみたいで、いつも結構な行列でね。今日はそれでも雨のせいか、人が少なめだったから」
「藤堂さん、スイーツ、ほんまに詳しいんやね」
「ま、一応、実家がチョコレート屋ですしね」
ひと時美味なスイーツとお茶でまったりとした三人だが、さてと、という藤堂の言葉で現実に舞い戻った。
「佐々木さんには朝から面倒なことに巻き込んでしまって申し訳ない」
「いや、俺こそ、ちょっと熱うなってしもて」
「いやいや、よくぞ言ってくださったと思ってますよ。それに元はと言えば、向こうの思惑に気づかなかった俺の責任でもある」
藤堂は珍しく険しい顔で言葉を結んだ。
「そこで、向こうがその気なら、こちらも奥の手を使うことにしました」
「奥の手、ですか?」
「常盤さんに二、三日こちらに来ていただく」
佐々木も浩輔もちょっと驚いて藤堂を見つめた。
そもそもが無理難題だった。
朝一番に藤堂から連絡を受けた佐々木は耳を疑った。
既にあと少しで終わるはずだった東洋不動産のCMプロジェクトが、ここにきて上からクレームが入ったというのである。
散々細かいやり直しなどをさせられたのだが、佐々木もいい加減脈絡のない指摘にイラついていた。
迎えに来た藤堂と一緒に東洋不動産の広報部を訪れると、担当の石島だけでなく、広報部長我孫子までが顔を見せた。
眼鏡をかけた肉付きのいい、頬が落ちてブルドッグ風な顔の中年の男だ。
最初にこの仕事に携わった際に眼鏡の奥の窪んだ眼でじっと自分を見たこの男を、佐々木はあまり近寄りたくない部類だと寸時に判断した。
「ここにきてこういうことを申し上げるのは大変心苦しいのですが」
上の方から、と前置きして我孫子は背景がニューヨークだけでなく、日本でのシーンもやはりほしい、ターゲットは日本のお客様なので、などと言い出した。
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