納期ぎりぎりの状態になってからしかもこの年末のただでさえどちらを向いても慌ただしいこの時期に、制作会社やその他諸々のスタッフの確保など不可能に近い。
「もちろん、必要経費はご請求くだされば」
「いや、そういうことでなはないでしょう。それだけの変更要求を今ここでされるというのは」
明らかに理不尽な無茶振りに対して、常に穏やかでほんわかムードな藤堂がいつになく憤然とした表情を我孫子に向けた。
「やはり既定路線でないと難しいですかな」
またしても抑揚はなくとも挑発的な言葉に、藤堂は怒気を含んだ眼差しで我孫子を睨みつけた。
「猶予はどれだけいただけますか?」
恐ろしく冷たいクリアな言葉は佐々木の口から出たものだった。
「……っ!」
鋭い凍てついた湖面のような視線を向けられた我孫子は一瞬怯みを見せた。
「そう、ですね、……一週間、というところでしょうか」
脂汗が我孫子の額に浮かんだ。
「わかりました。こちらも既定路線では物足りないと思っていたところです。それでは一週間後に」
冴え冴えとしたセリフを残して佐々木は藤堂と共にエレベーターで駐車場に降りた。
「申し訳ない。つい、カッとなってしもて勝手なことを」
プラグインに向かう車の中で佐々木は言った。
ここでキレてはプラグインに迷惑が掛かるとじっと我慢を強いられてきた佐々木だが、広報部を出たところで、久々、やってもた、と反省したものの、時既に遅しだった。
「いや、佐々木さん、さっきは超カッコよかったですよ。あのブルドッグオヤジ、佐々木さんの対応にあたふたしてるのを見て溜飲が下がりましたよ」
感嘆気味な口調で藤堂は続けた。
「しかし、佐々木さんのスケジュールがただでさえタイトなのに」
「逆にこんな無茶ブリ理不尽も度を越してる、第一、問題は常盤さんでしょう」
早速制作会社の手配をしている藤堂に、春日さんにもあたってみますからと、佐々木は言い、古巣であるジャストエージェンシーもこの時期てんやわんやで、業者も無論同じくなはずだとは思いつつ、一応春日に連絡をしてみた。
春日は探してみるとは言ったものの、難しいぞ、という答えだった。
浩輔にデータから北海道や京都の映像を探させ、常盤の映像と重ね合わせて作り込みはじめた頃、藤堂が難しい顔でオフィスを出て行って、ようやく戻ってきたその表情は、割と軽くなっていた。
「ま、今日あちこち駆け回って仕入れた情報によると、どうやらあちらさんは最初からそのつもりだったようです。元電映社で俺らより少し前に独立して代理店立ち上げた武腰という男で、コンペやったイーグルアイの代表、覚えてませんか? こいつが実は我孫子の背後にいたんですよ」
「どういうことです?」
「この武腰って、俺らがまだ英報堂時代に何度かコンペで顔を合わせましてね、こっちは全戦全勝、それを未だに根に持って、俺ら、特に河崎を目の敵にしてたんですよ。イーグルアイって結構羽振りいいらしくて、まあ、細君が大手銀行の頭取の娘とかのお陰で」
「はあ」
佐々木はよくわからないまま、相槌をうった。
「我孫子は今年の春、東洋商事ドイツ支社から東洋不動産本社に異動になった男で、こっちは大阪支社長に栄転した前任者の古橋さんをライバル視してたようで、古橋さんの息のかかった社員を窓際に押しやったりしてね。そこに付け込んだのが古橋さんの時から東洋不動産の広報部に顔を利かせていた武腰で、どうやら黄金色のお土産は役に立たなかった古橋さんの後釜に入った我孫子に何かと貢いで仲良しこよししていたところへ、今回の案件が持ち上がったと」
「なんでプラグインとのコンペに?」
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