「それこそどうも、イーグルアイの既定路線にメスを入れたいという上からの御達しだったらしく、広報部にいる市東さんて古橋さんの頃の残党が上に直訴したみたいで」
それを聞いて、佐々木ははあ、と息をついた。
「ああ、もう、佐々木さん、非常にくだらない理由が原因で、大変申し訳ない」
「しかし、いくら何でもここにきてあの我孫子がいちゃもんつけてきたところで、放映も納期は決まってるわけやないですか?」
「それなんだが、我孫子は古橋と組んで密かに別に進めていたらしい。イメージキャラクター、人気俳優の前泊林太郎」
「なるほど、こちらに無茶ブリしてできないとなったら、こいつら使えないとか上にご注進してそっちを使うわけやね。多少の出費はいとわへんと」
「でも、肝心の常盤さん、ほんとに日本に?」
それまで黙って二人のやり取りを聞いていた浩輔が素朴な疑問を口にした。
「奥の手って?」
「それは浩輔ちゃんが一番よく知ってるだろ?」
藤堂に言われて浩輔はきょとんと首を傾げた。
「常盤さんにアポ入れて、急だし最悪こっちが向こうへ行って、常盤さんだけ撮影させてもらって、とか思っていたんだけど、久しぶりに日本に行こうかって言ってくれたんだ。もう明日向こうを発つことになった」
「それはよかったですね。でも急なアポで明日て」
佐々木も合点がいかないという目を藤堂に向ける。
「沖縄の河崎に手配させた。明日昼前にJFKを発って明後日午後一時頃成田に着く」
「あ、ひょっとしておじいさんのプライベートジェット?」
「プライベートジェット?」
浩輔の言葉に佐々木が聞き返した。
「ああ、河崎にはアメリカに富豪の祖父がいましてね」
「それは、ほんま奥の手やね」
佐々木が頷くと、藤堂はにっこり笑って続けた。
「そうそう、制作、撮影スタッフ、猫の手も借りたいとあちこち聞きまくって、青山プロが懇意の制作スタッフに話通してくれて。珍しく工藤さんが電話に出たので一瞬怯んじゃいましたけど」
のんびりお茶を楽しんだ後は、三人とも即動くことになった。
藤堂と佐々木は撮影スタッフと共に先に京都に向かい、常盤に扮したスタッフを使ってリハーサルを行い、翌日は北海道に飛び、チェックしたロケ地でリハーサル、常盤を待って本撮影に入るばかりに準備をし、浩輔は制作会社へ赴き、そこで佐々木からのデータを受けとって佐々木のラフに合わせたデータ制作にはいる。
スケジュール通りに行っても限られた時間内に完成させるというのは至難の業だ。
「あああ、佐々木さん、ただでさえやつれてるのに、ほんとに大丈夫かな」
藤堂と佐々木を見送って、浩輔は呟いた。
直子は一旦オフィスに寄った佐々木に事情を聞くと、佐々木を心配してアシスタントとして同行すると頑として聞かず、オフィスの留守番のためにジャストエージェンシ―の春日を呼び出して言った。
「誰か、留守番お願いします」
あまりにも毅然とした直子の言葉に春日は否と言えず、社内に募ったところ、経理の野村やデザイン部の芝田や稲葉までが手を挙げたが、今、経理や稲葉は忙殺されているため、デザイン部の芝田が二年目の部下である伊坂をつれ、仕事とマシンを携えてオフィスササキに出向くことになった。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
