アディノの屋内練習場では朝から快音が響いていた。
顔をのぞかせた良太の目に、二人のスラッガーは結構調子よさげに見えた。
気になっていた沢村のバットが叩いたボールがきれいな放物線を描いて天井近くの壁に当たって激しい音をたてた。
良太は何となくだが、沢村智弘がどん底から這い上がろうとしているように思えた。
「良太あ!」
バットを置いて、タオルで汗を拭うと、満面の笑みを浮かべて手を振りながら先に良太のところへやってきたのは八木沼だった。
「何、何? 俺の顔みとうなったん?」
「八木沼さん、絶好調ですね。今日は正月特番の確認に参りました」
「ああ、全然OK。四日やったやろ?」
「はい、奪三振王のホークス千賀選手との同世代対談、よろしくお願いします」
「千賀、同じ関西同士で、結構おもろいやつやし、オチも最高なやつにしたる」
「って、いや、漫才特番じゃないんで、そこまでは………とにかく、上坂プロの斉田さんには改めてご連絡致します」
若さのあり余った絶好調男を前に良太もタジタジだ。
「あんなあ、良太、ちょっと聞きたいことあんねんけど」
ガハガハ笑っていた八木沼が、急に良太に真顔を近づけてきた。
「はあ、何ですか?」
良太は訝し気に八木沼を見上げた。
「良太が作った沢村のCMン時な」
「いや、俺が作ったんじゃなくて、沢村が俺の事務所を通じてCMのイメージキャラクターとして……」
「まあ、そう、メンドイ話は置いといてやな、そのクリエイターいうん? 実際CM作ったヒト?」
「ああ、クリエイターさんがどうかしましたか?」
「その、クリエイターさんの佐々木さんておるやろ? 良太、知っとるよな?」
「そういえば、今度、朱雀酒造のCM、八木沼さんが起用されたんでしたね。佐々木さんが担ぎ出されたって聞きました」
「そう、その、佐々木さん、どこ行ったら会えるん?」
良太はしばし思考が停止した。
「どこ……というか、CMの仕事が始まったら会えるかと」
まさか、という思いで、良太は極力常識的な答えを返した。
「そうやのうて!」
途端、八木沼はもじもじと徐々にニヤケた顔をさらして、「会いたいねん」とポツリと言った。
「は?」
「やから、ひとめぼれ、いうやつ?」
まさかが大当たりして、良太はうーーん、と額にてをやって、しばらく言葉が見つからなかった。
良太の頭の中では、まず、佳乃の件は全くなかったことのように昨夜遅くに工藤が良太を強襲し、スタジオに寄ったらアスカが最近調子を落としているというので、佐々木と沢村がぎくしゃくしていることに責任を感じているらしいと報告すると、とっとと何とかしろと沢村に言えと言い、続きで「大いなる…」が云々と何だかだと命令して、さっさと京都に向かった工藤の顔が浮かんで腹を立て、直子とアスカが交互に現れてどうしようと半泣きし、やがて「パワスポ」の大山がぐったらぐったらと文句を言い、かおりと肇が現れてまたああでもないこうでもないと良太に訴え、沢村が佐々木さんと叫んでいた。
「なあ、良太なら、佐々木さんの居場所知っとんやろ?」
寝不足もあって混乱を極めている良太の顔を覗き込んで能天気な男が、また繰り返した。
「八木沼さん、一応、確認しておきますが、佐々木さんが男性だということはご存知ですか?」
一応確認しておこうと、平静を心がけて良太は八木沼に問いかけた。
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