「なかなかうるさくてええよ、これ」
「そう? じゃ、これ使って」
直子はいそいそとプレーヤーを佐々木に渡すと、「直はね、2番目のHardwiredと次のEnter Sandmanがおすすめ!」と付け加えた。
「わかった。これで仕事もはかどりそうや」
「そうだ、佐々木ちゃんご飯どうするの?」
直子が思い出したように言った。
「せやな。直ちゃんに、奢るとか言うてから全然時間取れへんし、寿司でもとって一緒に食べてく?」
「わーい! 一番寿司と寿司の平河、どっちにする?」
「たまにはリッチに佐倉さんにしてみよか?」
「え、うわ、ミツボシの?」
直子は満面の笑みで特上を二人前注文すると、「せっかくだから美味しいお茶、いれなきゃ」といそいそとキッチンに向かう。
湯飲みや急須をトレーに乗せながら、直子は佐々木と二人でご飯やお茶をするのが随分久しぶりなような気がした。
「ほんとは、佐々木ちゃん、私じゃなくて沢村っちとご飯食べた方がいいのに」
佐々木が制作会社に詰めていた間に、良太に連絡を取って、沢村が振られてひどく落ち込んでいるという話を聞いたのだ。
確かに二人の間の問題に、外野が首を突っ込むものではないかも知れないが、やはり佐々木はわざと沢村を遠ざけたのだろうと、直子は思っていた。
佐々木には何も聞いてはいないが、おそらく沢村のために。
「でもそんなの、お互いにつらいだけじゃん。何で………」
相手が男だってことが公になったらって、それを心配してるのかな。
でもそうなったらそうなったで佐々木ちゃんまで好奇の目にさらされる前に、二人でアメリカでも行けばいいじゃん。
沢村っちはMLBで、佐々木ちゃんだって、活躍の機会が広がるし。
もちろん、あたしはアシスタントとしてついて行くのにさ。
それだけじゃなくてまあ沢村っち、人気あるし、女がほっとかないし、そりゃ、気にならないはずはないけどさ。
でも沢村っち、佐々木ちゃんに一途なんだよ?
やっぱ先生のこともあるのかな~
お茶の師匠でもある佐々木の母親淑子のことを思い浮かべて、ぼんやり考えこんでいた直子は湯沸かしが沸騰しているのに気づいて慌てて止めた。
「芝田ちゃんにもなんかお礼せなあかんなあ」
ミツボシな夕食を二人で堪能したあと、ポツリと佐々木が言った。
「芝田ちゃんは、佐々木ちゃん神だから、佐々木ちゃんからなら何でも喜ぶと思うよ」
先日二人ともオフィスをあけることになり、古巣のジャストエージェンシーから芝田は喜んで留守番に来てくれた。
「ほな、とりあえず、芝田ちゃんとジャストエージェンシーにお礼ってことで、直ちゃん、何かスイーツとかでもええし、手配頼んでええかな? 芝田ちゃんには、落ち着いたらまた直ちゃんとも一緒に食事でもしよ、言うといてもらえる?」
「了解! 芝田ちゃん、喜ぶよ~」
直子は両方の拳を握って大きく頷いた。
「あ、それと、土日、直ちゃん俺らに同行したり、制作会社でも手伝うてもろたし、休日出勤いうことで、明日、明後日振替てくれてええよ?」
「え、あたしは大丈夫だよ、全然!」
怪訝そうに直子は答えた。
「そういうわけにはいかんやろ。正式に社員になってもらうんは春からやからまだジャストエージェンシーの出向扱いやし、うちブラックになってまうよって、明日は浩輔と制作会社行って納品済んだら俺もさすがに休みたいから、明後日まで臨時休業にしよ?」
「明日、納品できそう?」
「そうやね」
「うん、わかった。じゃあ、明日、会社にお礼を届けてからお休みにさせてもらうけど、納品済んだら佐々木ちゃんも休むんだよね?」
「うん」
にっこり笑う佐々木だが、直子は訝しむ。
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