好きだから124

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「藤堂さんが調べてくれたんですけど、佐々木さんがベリスキーやってた頃、阿部って佐々木さんフリークで、俺に交代したのを根に持ってそういう行動に出たみたいです」
「何やね、それ」
 佐々木は笑った。
「笑いごとじゃないですよ、あの時、俺、やっぱ俺、デザインとかやるべきじゃなかったかみたいに思って」
「まあええやん、今は藤本さんに戻ったんやろ? そういうのんも浩輔の成長につながってるわけや」
 佐々木は浩輔の頭を掻き回す。
「またそういう、ガキ扱い~! 俺もういい年なんですから」
 佐々木だけでなく、多少童顔な浩輔はどうしても周りから愛玩的に見られてしまう。
「佐々木さん、今夜のパーティ、やっぱ無理っすよね」
「プラグインの? また河崎さんのとこで?」
「ええ」
「せやな、今夜はちょっと俺無理やな~。帰ってここんとこの睡眠不足を解消したいなあ。あ、でも直ちゃん、誘ったって? あ、ただし、大和屋の仕事、昨日で終わってることになってるよって、そこんとこはよろしゅうに」
「はあ、それはまあ。でも大丈夫ですか? 来週の月曜はショーのリハーサルあるし、お茶の方も一度ホテルの茶室、チェックしていただくことになってますし」
「まあ、今夜休めば平気や。浩輔もあんまり無理せんとな」
 浩輔をプラグインの前で降ろし、佐々木は運転手に一番町を告げた。
 オフィスのドアを開けるとひんやりとした空間に、ツリーのイリュミネーションだけが佐々木を迎えた。
 データを上げてそのまま制作会社に向かったので、キッチンにはマグカップがそのままになっている。
 洗っておかなければと思いながら、さっきから身体中がだる重い感じで足元もおぼつかないようで、ちょっと休みたいと、佐々木は奥の部屋のドアを開けた。
 滅多に使わないこの部屋は、春日が書斎としてデスク、ソファセットを置いてくれていたが、ソファは背もたれを倒せばベッドとしても使えるようになっている。
 だが、背もたれを倒すのも億劫な気がして、明かりもつけないまま佐々木はとにかく身体を横たえた。
 どのくらい時間が経ったかわからなかった。
 上着のポケットで携帯が鳴っていた。
 目を開けるのが億劫で、出なければまたかけてくるだろうと放っておいた。
 一度切れた電話は再びコールし始めた。
 佐々木は緩慢な動作でポケットから取り出すと、出ようとした途端留守電に切り替わった。
 もしやまだ返事を受け取っていない東洋不動産の件かも知れないとは思ったが、この際、没であろうが何であろうがもうどうでもよかった。
 それにまさかこれ以上のやり直しはやる気はもうとうなかった。
「藤堂さんにまかせますよって」
 ブツブツと独り言を口にしてまた瞼を閉じたが、しばらくするとやはり気になって身体を起こすと、携帯の留守電を再生した。
「佐々木さん、俺だ」
 耳に飛び込んできたその声を聞き間違えようがなかった。
「話したい。俺は別れるつもりなんかない。今夜あんたの家に行く」
 一気に佐々木の脳は覚醒した。
 会いたい、と心の奥で叫ぶ自分がいた。
 会いたい…………
 だが逡巡する間もなく、佐々木はその声に蓋をした。
 携帯で呼び出したのは別の人間だった。
「今日、忙しい?」
「ああ? 世の中クリスマスイブって知らないのか?」
 笑いを含んだ低い声が言った。

 


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