好きだから126

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「疲労の極致で、タクシーで行こう思て」
「お前何考えてんだよ、タクシーなんて、どんだけかかると思ってるんだ」
 稔は呆れた顔で佐々木を見た。
「たまの贅沢やから、かまへんて」
 稔は腕時計を見て、「一時過ぎか。ちょっと待ってろ」とドアの向こうに引っ込んだ。
 かと思うと、五分もしないうちにジャケットを羽織って、スニーカーに履き替えて出てきた。
「車で送ってやる」
「そんなことせんかてええ!」
 佐々木の言葉も無視して、稔は駐車場の奥に停めてあった白いラングラーを出してきて、運転席から顔を出し、「乗れよ」と言った。
 四ドアのゆったりタイプで、たくさん荷物が積めそうだ。
「何、これで健斗とキャンプとか行くわけや?」
 サイドシートに乗り込むと佐々木はバッグをリアシートに放った。
「まな。健斗が唯一カッコいいと言ってくれたのがこれ」
「ほんまにええんか? 健斗と何時に約束してるん? 午後の患者さんあるんやろ?」
「午後の診療はオフクロに頼んできた。健斗のうちに六時だから、ま、ギリだな」
 見た目はごついがインテリアはハイテクだし、なかなか機能的な車だが。
「サルーンとかとは比べるなよ」
 稔が念を押した通り、オフロードには強いだろうが、乗り心地としては最高とは言えないかも知れない。
「けど、俺ほんまに疲れて睡眠不足やから、寝さしてもらうで」
「寝ろ。起きた頃には着いてる」
「ほな、お言葉に甘えて。安全運転で頼むで」
「了解!」
 どのくらい経ったかわからなかったが、ドアが開く音で佐々木は目が覚めた。
「……着いた?」
「起こしたか? お前も便所行くか?」
「ええわ……眠い……」
 眠いというより身体が重い。
 佐々木は目を閉じるとすうっと落ちていくように意識を飛ばした。
 稔はサービスエリアで休憩を取り、飲み物や弁当類を買い込んだ。
 それから一時間も経たないうちに諏訪南ICを出て、車は茅野市に入っていた。
「着いたぞ」
 山荘の前に車を停めた稔は眠っている佐々木に声をかけて車から降りた。
 山荘はこじんまりとして、隣との距離もかなりある。
 今年はまだ雪がまださほど深くはなく、あらかじめ管理人にガスや水道、電気などを使えるように頼んでおいたのだが、道路から玄関までを軽く雪をよけてくれたらしい。
 のっそりと車から降りた佐々木は後部座席からリュックを取り、稔に続いた。
「へえ、何か、前来た時とは随分感じが違う」
 吹き抜けのリビングで佐々木は山荘の中を見回した。
 昔はもっと床も家具も古かった記憶がある。
 二階への階段もギシギシと暗いイメージがあったが、床も階段も明るい色に張り替えられ、ソファセットもゆったりしている。
「だから、オフクロがリノベしたらしい。おお、風呂とかもすんげえハイテクになってるじゃん」
 リモコンで湯がためられるようになっており、もちろんエアコンも新しい。
「おおお、ストーブか。こりゃ、健斗も喜びそうだ」
 リビングには新しい薪ストーブがドーンと設置され、寒い日もこれなら暖かそうだ。
「春から東京にいたんなら、夏休みとか連れてきたったらよかったのに」
「お前に聞かれるまで思い出しもしなかったんだよ。うお、キッチンもきれいになってるぞ」
 稔はあちこち覗いてはいちいち感激の声を上げている。

 


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