好きだから129

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「周平の場合、疲労だけじゃねぇからな」
 ドラッグストアで、パンやレトルトのおかゆ、スープ、牛乳、栄養ゼリー、アイスクリーム、ポカリや経口補水液と共に市販の鎮痛剤や総合感冒剤、胃腸薬、熱さましシートなど目についたものを一気に買い込み、近くの衣料品店でTシャツを数枚と下着を調達した。
 山荘の周りには歩いて行けるような店は何もないため、車が必須なのが難点だ。
 あのやろう、そういうことも何も考えてねぇな。
 山荘に戻った頃には、そろそろ出かけないとまずい時間になっていた。
 寝室を覗くと佐々木は眠っていた。
 ベッドわきのサイドテーブルに、薬類や飲み物、カップ、水、栄養ゼリー、赤外線体温計などと共に着替え用のTシャツや下着類を置いた。
 朝まで病人を一人放っておくというのはやはり心配だった。
 いや、周平だから心配なのだ。
 大の男かも知れないが、たかが風邪でも大人の方がこじらせることもある。
「いや、こいつ、こじらせたから熱がでたんだろ」
 呟いて稔は無暗に頭をかいた。
 大人になってもきれいな容貌は変わらない。
 子供の時、周平が寝込んでいると聞き、滅多にないことだったので勝手に部屋に入り込んでこんな風に寝顔を見ていたことがあったのを思い出した。
 淑子はああいう感じだから、周平が熱を出しても何もできずに、世話をしてくれるさわのがいてくれたお陰だろう。
 とにかく、すぐに連絡ができるように佐々木の携帯を枕もとに置いておかねばと思い、稔がリビングのソファに置いてある佐々木のバッグを取り上げた時、中の携帯が鳴った。
 携帯を取り出すと、画面に浮かんでいるのは沢村の文字。
 うううと唸りながら稔はまた頭を掻きむしった。
 今ここで俺が出たら、またこいつにあらぬ疑いをかけられることになる。
 そうは思いながらも、稔は電話に出た。
「佐々木さん?! 家にいるんじゃないのか?」
 ふうと一呼吸おいて、稔は言った。
「悪いな、佐々木じゃなくて。手塚というもんだが」
 するとしばしの沈黙があった。
「そういうことか。俺がそっちに行くって言ったから、佐々木さんはあんたを呼んだわけだ。よーくわかったよ」
「おい、待て待て待て待て、こら! 周平、今、熱出して寝込んでる」
 今にも切りそうな沢村を引き留めた稔は、佐々木が急に東京を離れようとしたのは、こいつが原因かと瞬時に理解した。
 あのやろう、どこまでも逃げを打つつもりだったな! バッカやろ!
「………え?」
 かろうじて沢村は電話を切らずに聞き返した。
「佐々木さんが? 寝込んでるって? 容態は? 入院してるのか? あ、点滴とか抗生剤とか! あんたの病院にいるのか? 熱ってどこが悪いんだよ?」
 沢村は慌てふためいて支離滅裂なセリフを羅列する。
「落ち着け。ただの風邪だ。おそらく。疲労と重なったんだろう」
「おそらくって、あんた医者だろ? 検査とかしたんじゃないのかよ?」
「蓼科の山荘だ。こっちに来てから熱があることに気が付いたんで、今眠ってる。お前が追い詰めるから、あのやろう、逃げを打ったんだ」
「え…………」
 沢村は稔の言葉に黙り込んだ。
 そんなに俺が嫌だったのかよ。
「あのな……」
 稔は沢村が何を考えたのか察して、どうしたものかと躊躇した。

 


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