好きだから138

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「えっらそうに!」
 ふとサイドボードの上の飾り時計を見ると、十時を回ろうとしていた。
「あ、直ちゃん、俺、沢村だけど」
 佐々木オフィスに電話をすると、直子はびっくりしたような声で「え、どうしたの? 何かあったの?」と勢い込んで聞いてきた。
 沢村は今蓼科にいて佐々木が熱を出して寝ていることや日曜の稽古は無理かもしれないことを伝えた。
「わかった。先生にうまく伝えとくね。ああ、でも、仲直りできたんだ? よかった~! 佐々木ちゃん、ほんとにあり得ないくらい仕事してたから、多分、沢村っちと喧嘩してたせいもあるんだよ、きっと。もう、絶対、佐々木ちゃんのこと、離しちゃだめだからね!」
 だーっとまくしたてて、最後は涙声になっている直子の佐々木を心配する気持ちが流れ込んできて、「わかった」と沢村は真面目に答えた。
 佐々木が眠っているのを確かめると、雪道用のランニングシューズに履き替え、沢村は外に出た。
 雪道を一時間ほど軽くジョギングして山荘に戻ると昼近くなっていた。
 何か買い出しに行くかと考えつつ、シャワーを浴びて出てきて間もなく、沢村の携帯が鳴った。
「よう、また飲んだくれてんじゃないんだろうな」
「わりぃな、昨日から蓼科だ。佐々木さんと」
 からかうような良太の声に沢村は勝ち誇ったように答えた。
「へえ、ほお? やっとお許しが出たのか?」
「るっせ!」
 年明けの正月特番の打ち合わせを年内のどこかでという良太に、佐々木家の大掃除のスケジュールを確認したら連絡すると言って電話を切った。
「直ちゃんに聞けばわかるか」
 早速直子に確認すると、「三十日にやるって言ってたよ」という返事だ。
 自主トレはちょうど二十九日に切り上げることになっている。
 というのも、最初から佐々木家の大掃除は昨年と同じ三十日あたりだろうとあたりをつけてスケジュールを組んだのだ。
「二十八日の月曜日は午前中大和屋のショーのリハがあるけど、何なら浩輔ちゃんに任せればいいし、午後からジャストエージェンシーの納会があるから、佐々木ちゃんも出席予定なんだけど、体調と相談して欠席なら私がうまく言っておくから。ちなみに佐々木オフィスは二十九日までの予定」
 今年は仕事が延びたりでスケジュールがかなり崩れたのだと直子は続けた。
 二十九日はざっとオフィスを掃除して終わりだという。
「そうだ、大事なこと! 佐々木ちゃん、起きられるようになったら伝えて」
 今さっき、プラグインの藤堂がチョコレートケーキをお土産にやってきて、東洋不動産は一件落着だと上機嫌だったという。
「何かね、今の広報部長のやり方に怒った前の広報部長の部下だった人が、親会社の企画広報室に直訴したんだって」
 広報部長の我孫子が前任の広報部長古橋の息がかかった社員を窓際に押しやって、代理店イーグルアイと裏で手を組んで我が物顔に仕切っているのに業を煮やした、古橋の元部下市東が親会社の企画広報室に直訴したことが発端で、今回の仕事がコンペになり、プラグインが請け負うことになったのだが、我孫子はイーグルアイにプラグインとは別にこの案件を進めさせ、プラグインの仕事にケチをつけて最終的に仕事をイーグルアイに納めさせるつもりだったという。

 


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